< ステップ・バイ・ステップ法 >

再生治療中のクンのレントゲンです。
このピン…、一見はちょっと痛々しいです。
ところが、これがまた、見かけによらず優しいシロモノでした。
生体にかかる負担は、プレートと比較してもずっと優しいんですよ。
骨折治療の決め手は固定です。
初期の固定に過ちがなければ、そこには幹細胞が存在し、
サイトカインが生産されて骨はちゃんと癒合します。
徐々に曲がったり、癒合不全になったりはしません。
骨折の再生治療で多くの症例実績を持たれる岸上先生でさえ、
クンの術前診断は70%の可能性でした。
この術前診断の70%は、私が岸上先生から電話で伺ったもので、
横浜の病院で撮った最後のレントゲンでの画像診断です。

当時、クンの骨は急速に骨吸収が進んでいました。
新幹線に飛び乗ったのは、横浜の「このレントゲン」から更に2週間後になります。
クンの弱りすぎた骨折部分は、除去(整復)する必要がありました。
幹細胞やサイトカインが健やかな成長を遂げる為には、それなりの環境が必要となります。
骨折部に瘢痕組織(壊死した組織)が残存しているような場合、
新しい細胞の成長や骨を繋ぐ血流が妨げられてしまうんですね。
再生医療では、このような幹細胞やサイトカインが育っていくための
内部環境を「足場」と呼んでいます。
「幹細胞・サイトカイン・足場・血行」の4つは、
生体自身が治癒過程を果たしていくための必須項目なんだそうです。
瘢痕組織を除去して、幹細胞が育つ環境を整え、
更に、骨折部分が癒合し易いように「整復・固定」するのだそうですが、
弱った部分をそのまま整復すれば、
クンの右足は極端に短くなってしまうということで それをギリギリに抑えてくださいました。
岸上先生の創外固定法の基本は開創しないで行なう施術です。
クンの場合は、こうした作業をする必要があったため開創手術となりました。
術後のお話では、クンの骨は想像以上に弱っていて、
石鹸にネジピンを入れるような感触だったそうです。
そんな訳で、抜ピンまで9ヶ月近く掛かりました。
これはもう、名誉の最長記録ですね!
治癒能力を失い、急速に骨吸収していた癒合不全の1.5キロの細い骨に、
もし、プレートを入れて骨移植をしていたら・・・、
その結果がどうなっていたかということは、今の私には容易に理解できます。
これはもう、理論よりも先に、クンの長い治癒過程から、
私自身が体験的に「わかった」としか言いようがありません。
以上は、私が体験したお話ですが、患者であっても必要な知識だったと強く感じました。
獣医さんでも、こうした経験がなければご存知ないかもしれませんね。
知らぬは言いなり、まさかの事態・・・。 冗談にもなりませんから・・! ほんとに!

創外固定法にもいろいろあるようですが、
これが岸上先生考案のステップ・バイ・ステップ法という創外固定法です。
このステップ・バイ・ステップ法には、岸上先生の過去の思いの全てが込められています。
文献に書かれているのは、決してご自身の成功例だけではありません。
プレート治療の限界を、岸上先生ご自身が体験されてこそ生み出された方法なのです。
文献には、他の病院から転院してきた再骨折や癒合不全の症例とは別に、
十数年前までプレートを使っていた時の、岸上先生ご自身の経験も述べられています。
骨折治療で多くの経験を持つ先生でさえ、プレート使用時の成功率は95%だったそうです。
岸上式のステップ・バイ・ステップ法は、この残りの5%の無念さに直面された研究成果です。
この5%は、過去に獣医療の向上に心血を注いでこられた
先達の獣医さん方の無念さでもあったのではないでしょうか。
クンがして頂いた治療は、岸上先生の経験と努力の結晶なんですね。
私が岸上先生にお会いしたのは、僅か数回・・・。
にもかかわらず、控えめで静かな岸上先生の、内側に秘められた
獣医師としての並々ならぬ情熱と信念を、私はとても強く感じました。
岸上先生に出会えたこと、治療をして頂けたこと、
そして、クンが歩けるようになったことは、どんなに言葉を使っても表現することはできません!
クンのような重度の癒合不全に至らずとも、プレートや2度以上の骨折治療では、
およそ1割前後の割合で 不幸な結果に至っていることを、
岸上先生は強く訴え続けておられます。
もちろん、獣医さん腕は言うまでもありません!
しかし、それだけではなく、
プレートそのものにも、自己治癒力を阻害する大きなマイナス要因や
力学的な無理や限界があることを強く指摘されているのです。
10回や20回に1度位なら仕方がないのでしょうか?
救われなかったクンは、世の中にどのくらいいるのでしょう・・?
クンのネジピンは、岸上先生が祈りを込めて、クンの骨に入れてくださったものでした。
不思議なことに、治療中のある時期に、ふっと、いろんな思いが伝わってきたのです。
クンの経過を見守る中で、私自身も知らないうちに、
こうしたさまざまなことを感じることが出来たのだと思います。
そんなわけで パテとピンはクンから外された今も、
クンの足を支えてくれた大切な宝物としてとってあります。
この素晴らしい治療をして頂けたクンは本当に幸せでした。
ピンは、骨の状態や腱や筋肉を意識して角度や深さが調整されています。
貫通していない為、負担も少なく行動が規制されることもありませんでした。
パテを包んだ「おだんご」は、クンのお気に入りの枕だったんですよ。
プレートと異なり、骨が金属板という侵入者と戦わずに済みます。
血行も阻害されないので、骨細胞が自由に育ちます。
プレートと異なり、仮骨が育つために短期間で丈夫な骨になるそうです。
万一ピンが緩んでも、外側からそのピンだけを取ればOK。
プレートでは再び開創手術をして、その後のことを考えねばなりません。
一部のボルトが緩んだというお話は 想像以上に多いのかもしれません。
と言うのも、飼い主さんからのお話で何度も耳にしたからです。
金属疲労でプレートそのものが折れて再骨折してしまったり、
プレートの端が骨に長期に当たることで、
今度はその部分が骨折してしまうこともあるそうです。
あるいはまた、強固なプレートで骨折部が保護されるあまり、
歩くけども骨折部への刺激にならず、弱い癒合になることも少なくないようで、
プレートを外した後に再骨折するような時は、こういうケースが多いそうです。
こうした事故が10回から20回に一度起きていたら・・・、やはり怖いですね。
そうした起こり得る事態を全て考慮に入れた上で、それらを事前に避けた方法なんですね。
プレートはもう留められないと言われたクンの石鹸のような骨でも固定できちゃいました!
ただ、足に自信が出て、動きが活発になった頃、
ピンの付け根が多少ジュクジュクする時期がありました。
なにせ、挙げた足をブンブン振り回しながら3本で走っていたんです。
クンはピンが手首ギリギリだったので怖かったです。
というよりも、振り回した勢いで、ポキッと折れはしないかと怖かったです。
でも、時期がきたら、手首を自由に動かすことも大切になってくるんですよ。
どうしてもジュクジュクが心配な時は、かかりつけの先生に診て頂きましたが、
多少ジュクジュクしても、大抵はシャワーで洗えばきれいになりました。
ピンの緩みに気をつけるように言われており、
石鹸のようだった骨なので、とても心配でしたが大丈夫でした!
岸上先生は、通常の新鮮骨折でも、侵襲が小さい創外固定法を使い、
自己治癒能力を温存するやり方で治療されています。
通常の新鮮骨折なら1ヶ月半位で、丈夫な骨癒合に至るそうです。
