|
今、私の隣には豪奢な白いウエディングドレスを着ている妻がいる。彼女は笑みを浮かべてはいるが、固い表情をしている。 その妻の裏には、整えられた庭がある。花々が綺麗に咲き乱れている。その庭の真ん中で、木製の椅子が並び、その正面には台がある。そこで、既に結婚の誓いを立てていた。指輪の交換も終えており、左手の薬指にはシンプルな指輪がきらきらと輝いている 。 私たちの前に等間隔で置かれている8つのテーブルでは、たくさんの人々が歓談しつつ、料理を口に運んでいる。 「リラックス、リラックス」 そう小声で伝えると、頷くものの妻の硬い表情はそのままだ。 無理も無い、とも思ってしまう。1回きりの結婚式だから、と気合を入れていたから、何事も起こらないかが心配なのだろう。 しかし、それにしては、この表情はどうなのだろう。 「ここで皆さん新郎にご注目」 司会をしていた男性が私に視線を集めるように、声を出した。 妻が何事とばかりに、誰よりも早く私に視線を向けた。 「実は、新婦に内緒で新郎が用意していたものがあるんです」 式は中盤。滞りなく終わる筈の結婚式のサプライズに皆が色めきたっている。 結婚式のスタッフから取り出されたのは、花束だった。それを私が取りに行き、妻に手渡す。 花束は妻の好きな黄色を基調としているが、赤や、ピンク色もあり、華やかだった。 チューリップの花束。妻が一番好きな花だ。 「花束、欲しいって言ってたろ」 照れくさくて花束を渡したことはなかったけれど。 ようやく、妻の表情が緩んだ。 今日、妻は父親、そして、友人にはブーケという形で花束を渡すことになっている。その前にと、今この和やかな食事の時間にと思ったのだ。 それに、私には花束を渡す場面は元々予定になかった。 これからずっと一緒にいるのはこの隣にいる女性なのだ。花束という形で妻に感謝を伝えたかった。 「私の言葉、ちゃんと覚えていたんだ」 「そのとき、思いついたんだ。結婚式のサプライズ」 しかも、フラワーアレンジメントを得意とする友人にお願いして自分で花束を作ったのだ。 普段着る服装もあまり考えていないので、センスに自信はなかったが、友人のおかげでなかなか綺麗にまとまったと思う。 「何と手作りの花束です」 司会の言葉におおっと歓声が上がる。 気付けば、拍手の嵐が起きていた。 「初めて男性から花束をもらいました!」 突然立ち上がり、妻は花束を高々と掲げ、備え付けられたマイクに声を張り上げた。元気な花嫁の姿にカメラのシャッター音が響き渡る。きっと、私の社内の上司や同期たちは、後で元気な嫁だと話をするだろう。そのときは、はい、そうなんですとしか言いようがない。 しかし、せっかくの化粧が崩れるから泣かないと決めていた妻の目には涙が今にも零れそうになっていた。 けれども、その表情はやなり女性が一番輝くと言われるものそのものだったと思う。 そして、その笑顔は結婚式に参加した人々が見たいものだろう。 すとんと腰を下ろした妻がぽつりと言葉を漏らした。 「うちのお母さんがさ」 「うん」 「いつも花を飾ってくれたんだよね。亡くなってからは、花飾らなくて。何か自分で買ってくるのはむなしいなと思って。だから、誰かからもらったら、今度こそちゃんと家に飾ろうって思ってて。もらった花なら」 会うことがなかった妻の母親。 その母親の活けていた花は彼女の家庭の象徴だったのだろう。 私はちらりと義父に目を向けた。普段は気難しそうに眉根を上げているが、今日はむしろ下がってる。 「新米の奥さん、頑張るね」 笑った妻の目にはもう、涙は溜まってはいなかった。 「俺も新米の旦那を頑張るよ」 新しい門出。 家族、友人、職場の上司に先輩というの自分の周囲を形成している人たちの前で、私たちはもう一度とばかりにそう誓った。 昔、投稿した小説です。夫婦愛が書きたかったもの。 |