「大佐――!何か面白いこと言って!つーか言え」
執務室のソファに踏ん反り返って、エドワードはロイに毎度のことながらの批判を交えた言葉を投げた。 対するロイは何処吹く風といったところで、書類から顔を離さない。 それが、エドワードにとっては面白くない。 なので、何か面白いことを言えとそう要求した。
「いきなりそんなことを言われたところでな、君が言いなさい」

そう返されたところで、エドワードは言葉を納めたりはしない。

「言えって言ってるだろ。これ命令」
「生憎と面白い話などないな。因みに嬉しい話題もないぞ」
「誰かが結婚したとか、恋人ができたとか。誰かと誰かが付き合っているとか。 気になっている本が出版されたとか。賢者の石の情報掴んだとか、見つけたとか。これぞというものは?」
「聞いてない」
「何処かで聞けよ」

会話が途絶える。
先ほどからこの繰り返しだ。
何か会話を続けようと、手探りをしているのだが、如何せんロイが答えてくれない。
しかし、ロイを睨みつけていると、 「何だね、そんなに見つめるな。そりゃあ、私がいい男だしても子供で男の君に興味がない」 とせせら笑うので、エドワードはこの男に頭突きを食らわせたくなることがしばしばだ。

ペンを走らせるさらさらという音が空間を包んでいる。

窓に目を向ければ、曇った色をしている。 そのうちに、盛大に滴が落ちてきそうだ。 空は、何処までも続いていて、途切れていない。 天気予報では確か晴れの筈だったが、どうやら外れてしまったらしい。

何もすることがないので、何だかんだと言われるものの、ロイの顔を暫く見遣る。 ロイの長い睫で覆われた目は書類に向けられている 整った顔立ちをしているのが、俯いていてもわかる。 肌も白い。 同性の目からしても、認めよう。 この男は魅力的だと言えた。 だから、敵が多い。 そのうえ、口が口だから、煙たがられるのだ。

視線に気付いたのだろう、ロイがふと顔を上げてエドワードを見た。
「何だね、私に見惚れているのか?」
「うん」

ロイはあからさまに受け流した。 それが、何となく悔しかった。 エドワードは自分の鞄から著書を取り出した。 遂先ほど、図書館から借りたものだったが、未だ目を通していなかった。 それをこの前読んだところだったと気付いて、しまったと思っていた本だった。 ぱらぱら捲ってみるが、目新しいことは書いてはいない。 著書に目を落としながら、口だけ動かした。

「大佐」
「何だね」
「好き」
「……………今、何と言った?」
「あー。今、オレ、読書中。質問は後でお願いします」

エドワードはそう言って、本に目を通した。 一度読んだ文章はすらすらと頭の中を通り抜けていく。

ここから出たら、急いで違うの借りてこよう。雨降りそうだし。

「もう一度言ってくれないか?聞こえなかったんでね」

聞こえていたくせに、聞こえなかったふりをするのは大人気ないと思う。 先ほどまでと打って変わってうろたえている。 なかったふりをしようとしているロイは心の底で否定を望んでいるのだろう。

「至上最高に面白いことだよ!」

そうだ、すごく面白いことだ!何せ、有名な鋼の錬金術師が同性の、しかも、上官を好きなんだから。
笑い話にするには面白すぎるだろう。

ソファに座ったまま、エドワードは本で顔を隠した。そうでないと顔を見られてしまう。きっと、今の自分の顔を 見られれば、自分の気持ちなどわかってしまうだろう。

次に顔を上げたときには、ロイのペンの動きが完全に止まっていた。