何もかも終わった後で、ロイと再会したときのその顔はどこか寂しげだった。
どうしてそんな顔をしているのか理由がわからなかった。 それでも、嬉しさと悲しさが入り混じった表情を滲ませて、手を出したときに、胸にぴしりと走ったものは痛みだった。 意外に柔らかく温かな手をしていて、手を放した後もその余韻がいつまでも残っている感じがした。

場所は執務室で、何故か他の部下の姿は見えなかった。 それぞれの仕事があるだろうとそうは思ったのだけれど、心の中ではこんなものかとも思いもした。 繋がっている、そんな感じがしたもののそれは糸のような細いものでしかなかったのかもしれないと。 目的のもの――賢者の石を手に入れたなら、狗の証である銀時計を返すことは前々から話をしていた。 だから、目の前にいる男は少し寂しいのかもしれないとそう解釈した。 それでも、胸の痛みは未だ健在だった。

ロイが寂しそうな表情をするとは一度も考えなかった。 そうか、とそれだけで受け流すと思っていたのだ。 拍子抜け、とは違うと思う。 これで本当にこの男とは縁が切れるのだろうとそう実感した。

「あ、オレさ、リゼンブールにいるから、たまには遊びに来いよな」
とってつけたようにそう口にしたが、目の前の男のそんな様子など想像もつかない。 それに、ただでさえ忙しいのに、暇をエドワードのために空けるかというと疑問だった。 なので、その後何を言えばいいのかわからなくなってしまい、自然と顔を俯かせてしまった。 それでも、何か言わなければいけない気がして、誤魔化すように付け加えた。
「じゃなかったら、オレが遊びに行くけど。でも、忙しいよな。邪魔しちゃうよな…」
気を悪くしたのではないかと、言葉が尻つぼみになっていく。
「いや、そんなことがない。そうじゃないんだ。ただ……」
「ただ?」
顔を上げたとき、見えたそのロイの顔はどうやら困っているようだった。 珍しい、とエドワードは怪訝な気持ちになった。 表情でそれとわかったのだろう、ロイは苦笑いを浮かべている。

「全然君の力になれなかったとそう思って」
どこか照れ臭そうに、寂しそうに。
「君はいつの間にか自分でちゃんと目的を達成したんだとそう思ってな」

何言ってるんだよ。
そう口の中で呟いた。
そうだ、今までオレは一度として言ったことがなかったんだ。大佐の優しさに甘えて。 一番言わなければならなかったのに。



「兄さん、大佐にちゃんとお礼言いなよ」
「いーんだよ、あんな奴。言ったら調子づくじゃん、あいつが」
「でも、大事なことだよ」
アルフォンスとの会話が蘇った。



「一度、言わなければならないとそう思ってたんだけど」
すうと大きく息を吸った。
これが最後だから、と口の中で呟きながら。
そうじゃないと言えない気がした。

「オレに可能性教えてくれてありがとう。助けてくれてありがとう。優しくしてくれてありがとう」
顔が正面から見えなくて顔を背けてしまう。
「オレのこと…………信じてくれてありがとう」
ちゃんと身体戻ることとか信じてくれて、と口の中でもごもご呟く。

やっと顔を見ることが出来たかと思ったら、ロイは唖然としていた。
「何だよ、その顔は」
とりあえず、文句を言うとロイは顔を和らげた。
「いや、君にお礼を言われるなんて思わなくてな」
「それすごく失礼じゃねえ?」
「いや、そうじゃなくて」
悪い癖だな、とロイは呟くと今までとは違う、何も奥底には秘めてないようなそんな無邪気な笑顔を向けた。
そんな顔もできるんだとそう思った。いつもは意地が悪い笑みを浮かべているくせに。
「こちらこそ、ありがとう」





オレの胸にはあの銀時計はもうない。
オレにはもう縛られるものなんて何もないのだ。
これからしたいことが色々やれるのだ。

そう思うと、少しだけ心が晴れた。
なので、とりあえず、今言いたいことを言っておくことにした。
「オレ、結構アンタが好きだな」
そう言うと、ロイは驚いたようで、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
だから、エドワードはつい笑ってしまった。