| 朽ち果てる
いつもいつも考えていることがある。 但し、それを実行することはないだろうとそう思っている。 それでも、エドワードは自分がそう強くないことを知っていた。 だから、最後の手段とばかりにそれを行うであろう自分がいることを知っていた。 その行いをどう解釈しようが、人の勝手だ。 だって、エドワードにとって一番大事なのはアルフォンスなのだから。 自分の行いの全てはアルフォンスの為なのだ。 「鋼の。こんなところにいたのか?」 後方から聞き慣れたロイの声がかかる。 呼ばれたことに気付くまで時間がかかった。 あまりにも自分の思考に耽ってしまい、ふらふらと歩き回っていたらしかった。 廊下の端に来てしまったことにも気付かなかったところを見ると、重傷としか言いようがない。 「アルフォンスが探していたぞ。何処に行っているのかと」 エドワードは振り返った。 直ぐにロイは腕に書類を抱えているのが目に入った。 もしかしたら、これからその書類に目を通すために、あるいはサインするために執務室に向かうところだったのではないだろうか。 しかし、この廊下は執務室には通じていない。どうやら、ロイもアルフォンスと同様エドワードをに捜していたらしい。 「あ、大佐」 「何だ、その期待外れと言わんばかりの顔は。どうせならもっと可愛い顔をしなさい」 「可愛い顔ってどんなんだよ」 「まあ、君がしても、嬉しくないがな」 「じゃあ、言うなよ」 「上官との会話を楽しくできるようにしないと、出世はできんぞ」 「大佐と話すとむかつく理由がよくわかる言動をありがとう」 「顔がありがとうと言ってないぞ」 「元々オレはこういう顔なんだよ」 「そんなんじゃ、君の欲しいものはあげないぞ」 その言葉に反射的に顔を上げる。 まるで餌につられた魚のようだ。 しかし、心の中ではいつも思っている。 オレが欲しいものがアンタにはわかるのか? 「君の欲しいものは執務室に置いてある。取りに来なさい」 唇がそれを機に震えた。 寄る辺をなくした鳥のように、今縋れるものが欲しかった。 世界が暗転した。 「…どうした。何があった?」 ロイが何かを懸念しているかのようにこちらへと歩み寄ってくる。 その様が彼ならば、という漠然とした期待をもたらした。 不安が堰を切ったかのように溢れてきた。 「どうしよう。オレ」 「落ち着きなさい。ゆっくりと喋りなさい」 「どうしよう、何でオレっていつもこうなんだろう。いつも正しいことをしている筈なのに、何か間違えているんだ」 「落ち着きなさい。それからでも、話はできるだろう」 「どうしよう。どうしたらいいんだろう。教えてよ、大佐。 アンタはオレにいつも偉そうな口を利くんだから、答えを知ってるんだろ」 「先ず落ち着きなさい」 「オレ、欲しいものがあるんだよ。どうしても欲しいんだよ。 弟を元に戻したいんだ。オレの所為なんだよ。全部オレの所為なんだよ。オレがあいつを唆したんだ。 あいつはただオレに従っただけなんだよ。 あいつのなくしたものを全部取り戻したいんだ。 オレの命はあげてもいいから。 ずっと探してるんだ。それなのに、全然見つからないんだ。 本当はあんたは知ってるんだろ。 教えてくれよ、オレ、何でもするから。オレの命はあげてもいいから…」 「……………落ち着きなさい」 「本当に何でもするから、お願いだから教えてくれよ。 あいつ、このままじゃ絶対壊れる。 いつか、壊れる。 怖いんだよ。 人形遊びみたいに、本当は魂のない人形に話し掛けているみたいで、怖いんだ。 弟が本当に生きているって実感したいんだ。 オレのたった一人の弟なんだ。代わりなんていないんだよ」 いつの間にかロイの腕を手に取っていた。 ばさりと書類の束が落とされる。 ぎゅっとその腕を握り締める。 ロイが困惑しているのがわかった。 が、そんなことに構っていられるほどエドワードには余裕がなかった。 困惑したロイの視線がエドワードのものとぶつかり――。 「どうした、鋼の?」 ロイの言葉に我に返った。 「別に何でもない」 ロイに何もかも縋りつきたくなる、彼ならば、という思いがある。 ロイはエドワードを道を示した。 提示された道は決して平坦なものではなかったけれど、エドワードにとっては指標になった。 だから、心の底ではもしかしたら、という思いが拭えない。 笑うなら笑えばいい。自分の愚かさを。 それでも、エドワードはアルフォンスのためにできることがあるならば、全てするつもりでいる。 しかし、これは最後の希望でしかない。 ロイは賢者の石の情報を提供してくれる、有力な手がかりへと通じる道標だった。 だったら、彼なら本当にアルフォンスを元に戻す方法を知っているのではないかと――。 どうして、どうして、オレはいつも――。 「鋼の」 「何?」 「君はいつも急ぎすぎなんだ」 「そんなの……」 「たまには休みなさい」 「ご忠告ありがとう」 ありがとう、と先程より素直に口を出したところに、もしかしたらオレは疲れているのかなと思う。 ロイもそうだと思ったらしく、珍しいとばかりに笑っていた。 |