ボクが鎧姿になってよかったと思うことが一つある。



ボクが鎧姿になってから、いろいろなことに兄は気を遣うようになった。 昔はそんなことはなく、兄は弟であるボクが言うのもどうだろうと思うほど、横暴だった。 よく、欲しかったものは兄から奪われた。 そのときには何でなのかよくわからなかった。 ただ、唐突に心に引かれたものが兄の手に渡った。 あっと思ってそれを見ていると、母親が兄を嗜める。
「お兄ちゃんでしょ」
そうすると、兄はばつが悪そうな顔をするものの、何で怒られなければならないのだと直ぐに不満が顔に出る。 兄が反省してないのを知るや否や、もう一度と母親は注意する。 そんなことが頻回だった。 子供心にもわかるものがあったのは、兄は自分のことが嫌いなのではという思いだった。 悲しくなり、ボクは泣き声を上げる。 そうしていれば、きっと何かが変わるのだと漠然と信じていた。

それは多分、真実だろう。

「一緒にたまにはお茶でもどうかね?」
「男同士で何が楽しいんだよ。そんなの」
「私は楽しいと思うがね」
そう言って、マスタング大佐は兄の報告書に目を通している。 本当に読んでるのかと疑うほどのそっけなさだった。 多分、大佐にはその報告書の収穫のなさが読めているのだろう。 だから、ぱらぱらと兄がもっとちゃんと読めよ、と言うほどの速さで薄い報告書を捲っている。 なんとなくではるが、大佐は兄に話をしたいのだとそう思う。 どんな話があるのかわからないが、それは少なくとも、兄にとっては「いい話」であるかもしれないのに。 理由はわかっているのだ。
ボクがいるから。 ボクは食べることが出来ない。 それでも、雰囲気で楽しめるのだが、兄は気を遣っているのだ。 そして、兄が色々なことに気を遣っているうちに、兄がもしかしたら、 手に入れられたかもしれない何かがすっぽりと抜け落ちていくような、 そんな感覚を覚える。

そんなに気を遣わなくてもいいんだよ?

他にも兄さんを食事や遊びに誘う人がいる。
多分、兄さんは自分で思っている以上に、親しくされているのだとそう思う。
他の国家錬金術師がどうなのかはわからないけれど。

いつもいつもボクに気を遣う兄さん。
優しい兄さん。
昔、こんな兄さんがいいなとそう憧れた兄さん。


でも、ボクは知ってるんだ。 いつもいつも色々な何かをボクから取り上げた兄さんだけど、最後には一緒になって遊ぶんだ。 母親から怒られたりもしたけど、楽しかった、あの日々。

ボクはそんなことを望んでないよ?



そんな言葉を飲み込んでいる。

結局兄さんは大佐の申し出を受けなかった。
その帰り道、ボクは思わず言った。

「兄さんってボクがいないと駄目だよね」
「何だよ、それ」
兄さんは少しだけ、怒った顔をした。
「でも、ボクいつまでも兄さんの傍にはいられないからね。 ボク可愛い奥さんが欲しいし、やりたいことがたくさんあるから」
「生意気だぞ、アル。兄を差し置いて」
「兄さんだってやりたいことあるでしょ、たくさん」
「そうだなあ」
そうして、考え込み。
兄さんは泣き出しそうな顔になって笑った。

それを見て。
ボクは。
少しだけ笑いそうになった。
昔手に入れられなかったものが手に入った気分になった。