「兄さん、眠れないの?」 兄さんの傍にいることは昔、安心を意味していた。 しかし、鎧の身体となってからは、少し辛くもあった。 傍にいる度に自分は兄さんと違う、そのことを見せ付けられるのだ。 それこそ、自分たちの罪の具現。 しかし、見せ付けられるのは悲しかった。 「いや、そんなことないけど。アルどこに行ったかなって思ってさ」 時々、夜室内から出て行くボクのことを心配しているのだろう。 「何言ってるの、兄さんじゃあるまいし。ボクはどこにも行かないよ」 行けないよ、との言葉の方が正しかったかもしれない。 そうだよな、とそう苦笑いを浮かべながら、兄さんは宿の床へと目線を下ろした。 長く続く回廊には夜半であるからか、人の気配すらなく、殆どの人は眠っているだろうことが知れた。 ちらちらと宿の窓から明かりが漏れ、闇に消されまいとしているかのようだった。 「あのさ、アル」 「うん、何?」 「あのさ」 兄が何か言い出しにくいことを口にしようとしているいことはわかっていた。 しかし、何となくではあったが、ボクには話したくないことでもあるのかな、とそうも思った。 が、何度となく躊躇して出てきた言葉は、思ってもみないことだった。 「オレ、お前がいるから頑張れるんだよ」 時々、本当に時々、兄さんは思ってもみないことを口にするとそう思う。 それは、ボクの方だ。 どこまでも闇が続くように思えるこの世界から唯一手を伸ばしてくれているのが、兄さんだ。 それでも、時々こうやって確かめるように話す兄さんをボクは持て余してしまう。 「そろそろ戻ろう。な?」 そう言ってくしゃりと笑って兄さんはボクを引き連れて、宿の一室に足を踏み入れた。 本当はボクは知っている。 何故、兄さんが眠れないのか。 昔の夢を見たからだ。 時々、ボクは兄さんに睡眠薬をこっそり飲ませようかとそう思ったりもする。 ボクが夜起きて出てくるのは、兄さんが悪夢に魘されているのを見たくないから。 兄さんは母さんに謝る。 ごめんなさい、と。 兄さん一人が何もかも背負っているように感じて、たまらなくなるのだ。 「ごめんね」 その言葉を兄さんは聞かなかったとそう思う。 |