夕暮れが迫っていた。 今にも覆い尽くしそうなそんな夜の始まり。 一人取り残されような、そんな夜が昔は怖かった。

もう僕は眠りを必要としない。 そんな時間に慣れることが出来ない。
ベッドの中で兄さんは眠っていた。 安らかな呼吸が聞こえてくる。 生きているその証。 布団の上からでもわかる、呼吸で胸が上下している。 普段は勝気なその瞳は、今は伏せられている。

宿の窓を見遣れば、窓の外には夜景が広がっている。 ぽつぽつとした明かりが点在し、そこには人がいるのだということを如実に物語っている。 今頃は殆どの者たちが夕食を食べているのか、それとも、眠りに入ろうとしているのか。 ふと、寂しい、とそう思うのは、何故なんだろう。 そして、何処までも続きそうな夜が怖い。

僕は隣で眠る兄さんを見遣った。
兄さんを起こそうかな、とそう思う。
起きてって言おうかなと思う。
一人で寝てしまわないでって言おうかなと思う。
一人が怖いんだ。
そんなことを言えば、きっと兄さんを不安にさせてしまう。

そう、心の中で呟く。

それでも、考えてしまう。 優しいから、兄さんは言えば、きっと起きててくれる。 不安を共有してくれる。

手を伸ばして、隣で寝ている兄さんの髪に触れた。 本当はきっと柔らかいだろうに、その感触も伝わってこない。

絶望ってこういうことを言うのかな、とそう思う一人の夜。