「また兄さん、机の上で寝ちゃって。風邪引いちゃうよ」
簡素な宿の一室。そのテーブルの上で寝ている兄に毛布をかける。 よくこういうことがある。 無理をしていると、直ぐにわかる。
先程まで開いていた錬金術の本。その直ぐ隣には、兄の手帳がある。
「けど、兄さんの手帳の暗号わからないなあ」
兄の研究の暗号の羅列が手帳には並べられている。 本当にさっぱりわからない。 わかるとしたら、同じ錬金術師であるイズミ師匠か、マスタング大佐ではないだろうか。
「ん?」
これ。
思わずパラパラ見ていた手帳を注視する。 店が何軒もメモしている。
兄さんが美味しいって言ってたお店? また行くために?
わざわざ兄がメモする必要があるように思えない店の数々。
可愛い子いたかな?
首を捻る。
店の品々も恐らく統一されていない。
「ボクを連れてくため?」
兄は美味いから、アルとまた来たいって言っていた。
ボクは今食物を必要としない。鎧の身体なのだから。中身は空っぽ。鎧の中の血印が何とかボクを魂を留めているに過ぎない。
記憶力いいんだから、書かなくても兄さんは覚えてるのに。 自分への戒めのようなその店の数。
「あちこち行ったもんね、二人で」 それなのに、賢者の石に辿り着かない。不毛な大地を歩いているような。
兄さん、ボクは兄さんがボクの兄さんで良かったと思ってるよ。
乱暴だし、口も悪いし、短気だけど、弟思いの優しい兄さんだから。
兄さんが一緒だから、ボクは気が狂わずにすむんだ。
「身体取り戻したら、また一緒にご飯を食べようね」
当たり前の幸せを噛み締めながら。








「何書いてるんだ、アル」
「身体が戻ったらやりたいこと。たくさん出来たから、リストにしてるんだ」
机の上で、アルフォンスが一心に紙に文字をつらねていた。
興味を引かれた。
「そっか。見ていいか?」
「いいよ」
アルフォンスがどことなく照れているのが伝わってくる。感想を待っているんだろう。
リストの一番目には、お世話になった人たちに会いに行くと書いている。
当然だ。
二番目には、彼女が欲しいと書いてある。
ちら、とアルフォンスを見やる。
まあ、年頃だしな。
三番目には、ウィンリィのアップルパイが食べたいと書いてある。
あいつのアップルパイは美味しいしな。
グレイシアさんのレシピを教えてもらったのだ。
次は、と次の文章に目を落とすと、兄さんに触りたい、と書いてある。 オレもアルの身体が戻ったら、触れたいよ。 お前が生きてるってちゃんと実感したいよ。 他にも色々な望みが書かれている。猫に触りたいというのまである。
「ほんと多いな」
苦笑いがこぼれ出る。
ああ、オレもたくさんあるな、とそう思う。自分の事よりも弟が最優先ではあるが。
「身体取り戻さなきゃね」
そう、先ずはそれからだ。