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寂しいって言えない 「そろそろ次の町に行こうか」 「そうだな、収穫なかったしな」 いつもの遣り取りだった。 賢者の石の情報に足を運んだものの、空振りをしてしまった。 だとしたら、また違う情報を基に、また次の場所へと足を運ぶ。 エドワードとアルフォンスは喫茶店にて一度休憩をしていた。 店内には同じように、休憩している者たちがたくさんいた。 その面々は、それぞれ話をしたり、読書をしたり、と時間を楽しんでいる。 エドワードは目の前のオレンジジュースを飲みながら、外の景色を眺めた。 それは、とても穏やかな景色だった。 買い物途中の主婦や、犬の散歩をしている飼い主や、遊びに繰り出そうとしている友人同士。 太陽は頂点にあり、ぎらついた視線を落としている。 「行くか」 オレンジジュースを飲み干したエドワードは伝票を手に立ち上がった。 と、そのときアルフォンスが思い出したとばかりに言葉を出した。 「あ、そういえばさ」 「何だよ、アル」 「この町、司令部に近いけど、大佐に会いに行かなくていいの?」 「何でオレが大佐に会いに行かなくちゃならないんだよ!」 「会いたくないの?」 「報告書はこの前渡したし、顔も見せたからいいんだよ」 アルフォンスの言葉に他意がないことはわかっている。 純粋にただこの町が東方司令部の近くだから、ということだろう。 アルフォンスの言葉にふと司令官であるロイ・マスタングのことを思い出した。 二ヶ月、それとも三ヶ月振りに顔を見たのだったろうか。 「君は本当につれない」 そう苦笑いをして、ロイは言った。 ―――エドワードの気持ちを知らないくせに。 「会いたくねえよ、あんな奴」 会ったら自分の気持ちが揺らいでしまう。 自分にはすべきことがあるのに。 (会いたいよ、本当はいつでも) 会えないときは、気付けば何をしているのか考えている。 「早くしようぜ、アル。早くしないと置いていくぞ」 そう、エドワードはアルフォンスに笑って言った。 嘘つきな唇 「大佐、雨降ってる。雨だよ、アンタの弱点の」 「弱点と言うのはやめてくれないか?響きが嫌だ」 「だって、弱点だろう?雨じゃ焔は使えないもんな」 にやにや笑うエドワードが憎たらしい。 「それよりも、もう君の用事は済んだんだろう?早く帰りたまえ。アルフォンスが待っているんだろう?」 「うん、だってさ」 「何だね?」 「雨が降っているから、雨宿り」 傘持ってないんだよね、とエドワードは言う。 どんな理由だ、とロイは思う。 傘など簡単にエドワードなら練成できる代物だ。 ロイは執務室の窓外に目を向けた。 雨は降り続いており、雨音は止もうとしない。 日は翳っており、今は昼なのに、夜のように感じられる。 雨は嫌いだ。 気分がどこまでも鬱々としてくる。 しかし、今なら好きになれる気がした。 エドワードが雨を理由に傍にいてくれるからだ。 これから何処へ行こう? 定期報告。 その報告はいつもと何も変わらない。 いや、変わっていれば、司令部に来たりなどしないのだろう。 「では、次の町に行くのか?」 「ああ、今度は何か見つかるといいんだけどな」 本当はこんなことが言いたいわけではない。 もっと別のことを話したい。 それなのに、出てくる言葉はいつもの日常会話だ。 しかし、エドワードは自分の気持ちを押し切って、執務室の扉に手をかけた。 「じゃあな、大佐」 執務室を出てから、エドワードは溜息を吐いた。 どうしていつも――。 自分自身に嫌気を差した。 次の町に行けば、また何ヶ月も入り浸っているのだろう。 その間、ロイとの連絡を取らない。 だから、司令部に来るときが唯一ロイと顔を合わせる機会だというのに。 それなのに、どうしても、出てくる言葉はいつもと変わらないのだろう。 エドワードは窓外に目を向けた。 イーストシティーの町並みが窓一杯に広がっている。 立ち止まっていても仕方がない。 そう思い、エドワードが足を踏み出した途端、後ろの扉が開いた。 必然として、それは執務室の扉だ。 中にはロイ・マスタングしかいない。 だとしたら、扉を開けたのはロイということになる。 振り向けば、そこには思っていた通り、ロイの姿がある。 「大佐…」 「鋼の、未だいたのかね?とっくに帰ったかと」 お互い、暫し、立ち止まってしまう。 何となく視線が合わせ辛いのは何故なのだろう。 「もし、君が良かったらだが」 「うん?」 「一緒に夕食でもどうかね?」 もうすぐ仕事が終わるんだ、とそうロイは言った。 どう答えを返したらいいのだろう。 いつもだったら、断っている。 でも、今は――。 「腹が減ってるから、食べる」 司令部の庭でアルフォンスが、ブラックハヤテと遊びながら待っている筈だ。 そう考えて、罪悪感に駆られた。 それでも、きっとアルフォンスはたまにはいいんじゃない、と言ってくれるのだろう。 優しい幼い弟の姿が瞼に浮かんだ。 恋をした2人のためのお題より。 |