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「あいつほんっとに腹立つよな、あの態度!」 天下の往来で、そう怒鳴っているのはエドワードだ。 兄であるエドワード・エルリックは言葉が悪い。 そして、あまり後見人であるロイ・マスタングのことが好きではないらしい。 それでも、アルフォンスはわかっていることがある。 「しかも、色々頼んでくるし、オレは便利屋じゃないっつーに」 「それだけ頼られてるんでしょ?」 「そうかあ?」 「あれだけ若くして出世していると、色々あるだろうし」 「それはそうだろうなあ。まあ、頭回るし、やっぱりやり手だからな。錬金術の腕は確かだし。……雨の日は無能だけど」 エドワードは本人の前では褒めないけれど、ちゃんとロイのことを認めている。 きっと、こういところを見たら、ロイはきっと驚くだろう。 大佐も、本人の前で褒めないけど、僕の前だと兄さんのこと褒めるんだよね。 「君のお兄さんは、努力家で、目指しているものにまっすぐで、一緒にいると刺激を受けるよ」とどこか遠い目をしていて教えてくれた。 「私が言ったと言わないでくれよ」とそう付け足したけれども。 そのロイの顔は笑っていた。 本当に二人とも似た者同士だ。 エドワードの集中力は本当に凄まじい。 だからこそ、成果へと少しずつでも着実にでもつながっているのだろう。 だが、今日はなぜか違った。 「なかなか集中出来ないようだな。君が欲しがっていた本だろう?」 ぺらぺらと流し読みをしているエドワードについ、言葉が出た。 「うん、まあ、そうなんだけど」 ちらちらとロイの様子を見るエドワードにどこか調子が悪いのかな、とロイは想像を巡らせた。 「調子、悪いのか?」 「そうじゃなくて」 「なら?」 本当に心配になってきた。執務室に入ったときは、普段通りの不遜な顔をして、「報告書」と一言言ったときとは違いが激しい。 ソファでゆっくり寛ぐものだとばかり思っていたのに。 「あんたがいると集中出来ない」 それは褒め言葉として受け取っていいのだろうか。 怒っているような口調、しかし、少し赤い顔をしているエドワードに珍しいと思いつつ、つい、唇の端に笑みが浮かぶ。 それは鋼の、誘っているとしか思えないよ、とも思いながら。 執務室にて、甘いものを目の前で美味しそうに食べる子供が一人。 ドーナツをそれはそれは美味しそうに食べている。 ホークアイが用意したものだ。流石というべきか、ホークアイが用意してくれたドーナツはなかなか甘くて、美味しい。 「私も食べたい」 突然、ロイから声を掛けられた。 ソファに座っていたエドワードは食べるのをやめないまま、顔だけロイへと向けた。 「仕事中だろ。というか、あんた甘いものあまり好きじゃないんじゃ」 「食べているのを見ていると、食べたくなるじゃないか」 「まあ、それはそうかもしれないけど」 「少しくれ」 「大人気ないぞ」 そう思いながらも、 今日は頑張っているしな、と書類に格闘しているロイの前に立つ。 「ほれ」 食べかけのドーナツをロイの口まで持っていき、開いた口の中に押し込んだ。 そのとき、指が柔らかい舌にあたって、どきりとした。 「どう?」 ごまかす為に、そう聞くと、即座に「甘い」と返ってくる。 「ドーナツだから甘くなかったら、嫌だよ」 未だドーナツは一個皿の上に置かれている。 が、急にロイの存在を意識してしまい、食べる気がなくなった。 「鋼の、かすがついてる」 口元へと指があたり、なぞられた。 視線がはっきりとロイと重なった。 「大佐っ!」 「かすをとってあげただけだろう」 にこりと笑って返される。 悪いと思っていないらしい。 触り方がエロイんだよ、と思いながら、エドワードは机の上に置かれたドーナツに目を向けた。 ドーナツが一個置かれている。 本格的に食べる気が既になくなった自分に気付く。 食べる気満々だったのに。 「大佐、もう一個食べる?」 「そんなに要らない」 「オレがあーんで食べさせてあげようか?」 少し考えた後で、エドワードはそう言った。 「………………本気か?」 かなり間を空けて、ロイが聞いた。 「やるわけないじゃん」 |