買ったはいいが、処分はどうしたものか。 大量の花の臭いにむせ返りそうになる。情報の代価に、買った花たち。 車に全部は詰め込めない。むしろ、溢れた。
「うーむ」
顎に手を当てる。
流石にこの量となると考え混んでしまう。 花にはそれぞれ花言葉がある。それを考えず、誰かれ構わず渡すとあとあと面倒なことになる。
例えば赤い薔薇は愛。 赤いチューリップは永遠の愛というように。
花に男が囲まれているのも変なものだ。 往来の周囲の視線は痛いものへと映っている。軍服は着ていないが、自分の顔は周囲に知れ渡っている。
花の中でふと目を惹くものがあった。大きめの花弁を持つ紫のアネモネ。
「これは確か」
花言葉は。

「あ、花」
宿に帰れば、部屋に小さな花瓶に紫の花が数本活けてある。 宿を出る前はなかったものだ。
部屋に入った途端、鮮やかな紫が目についた。簡素な調度品、ベッドしかない部屋の中、そこだけ目立つ。
「花だねー。何て花かな?」
「何だっけ?」
花など特に興味がない。よって、名前も出てこない。 多分宿の主が気をきかせて飾ってくれたのだろうとさして気にしていなかったが、ちょうど廊下へと布団を両手に抱えてきた宿の女主人を見かけたため、声を掛けた。
「花、わざわざ飾ってくれたの?」
何て花か聞こうとしたが、その前に主人が答えた。
「あ、その花はお客様の友人からですよ」
「え?」
花を送ってくるような相手がいただろうか。
「何でも、小さなお子さんに、とのことで」
他は大人の方しか泊まられていないので、という主人はちらりとアルフォンスに目を向ける。
一人しかそんな言葉を使う人間は思いつかない。 ロイだ。
「誰が足で踏み潰せるほどのどチビだ!」
驚いてる主人に、アルフォンスが謝る。
「あ、気にしないで下さい。背のこと気にしてて」
けど、とアルフォンスは呟く。
「大佐、花どうしたのかな?」
「どうせ、女に渡して余ったやつじゃねぇの?」
この前会ったときの、女性と待ち合わせしていた様子が嫌でも甦る。
あの女ったらしめ。
明らかに女性の扱いに手慣れていた。
肩に手を回して。
「あの、その花、アネモネっていうんですけど、花言葉があるんですよ」
「え?」
「あなたを信じて待つっていうんです」
多分主人はエドワードの機嫌を取りなそうとしたのだろう。
これからエドワードたちは北に行く。新しい旅になる。そのことを言ってるのだろうか。それとも、からかっているだけか。
主人にお礼を告げ、エドワードは固いベッドに寝転がった。
ベッドとベッドの間に台があり、花瓶はそこに置かれていた。 特に気にしていなかったアネモネが視界の隅に映る。
あのロイのことだ。花言葉を知っている可能性が高い。
「花、綺麗だね」
ベッドに腰を下ろしたアルフォンスの言葉に素直に頷けない。
「男に送るなんて、何考えてるんだ」
少しだけ嬉しい気持ちになるものの、その気持ちは飲み込む。
もうずっと、あの男が自分に優しいことは知っているけれど。
男までたらしてどうするんだよ。
口元が一瞬緩んでしまったのは、不覚だ。



16巻妄想。








「何かあれば言えよ」
エドワードの言葉に一瞬息が止まった。
まさか、そんな風に自分のことを思っていた?
好かれているとお世辞にも思ったことはない。
ただ、エドワードが口にするほど、嫌われてはいないと思っていた。
「私は君にそう言わせるほど、酷い顔をしてるか?」
焦燥は感じている。が、しかし。 「いや、してねぇけど」
自分の部下は全員ブラッドレイにより追いやられた。
「君に心配されるとは、私も落ちぶれたものだ」
苦笑が自然と出てしまう。
「君は自分たちのことだけ考えていればいい」
エドワードの目がこちらを見ている。何もかも見透かされているかのような、珍しい金目。エドワード以外でロイは見たことがない。
「このエドワード・エルリック様が聞いてやるって言ってんだぜ」
腕を組んでそう言うエドワードは、自分より地位が高そうに見える。
「君の貸しは本当に高そうだな」
「・・・心配しちゃいけないかよ」
エドワードがそうぽつりと呟いたのが、聞こえてきた。
自惚れてもいいのかもしれない。 自分はこの少年から好かれていると。
「鋼の」
ふっと息をつく。
やっと自然と呼吸が出来るようになった気がした。張り詰めていたのだと知れる。
「何だよ」
「ありがとう」
車の窓から手を伸ばし、15歳にしては、背が低い、小柄な少年の髪を撫でる。
そういえば、子供のようにエドワードの頭を撫でるなどしたことがなかった。普段なら子供扱いは嫌がる癖に、エドワードは嫌がらない。ただ、甘受している。
私は本当に人に恵まれた。
お前にも出来たらいて欲しかったよ。
そう今は亡き、親友に心の中で告げた。



イシュバールの話を聞いた後で、こんな会話が二人にあればいいなと思った。アルはこの二人の世界に入り込めないと離れてます(おい)








マメだ、この男。
女性の寄せられた視線には手を振って応えるし、にこりと笑う。
流石錬金術師、記憶力も抜群で名前もきちんと覚えている。 そのうえ、地位も高く、顔も良ければ。
たまたま軍部で目撃した、手作りのものであろうお菓子の袋を手に取ったロイの姿を見てからのエドワードは、何故自分の上官が女性に人気があるのか気になり、後をつけてみて、決断を下した。
「それか」
納得いかねぇけど。
「私のあとをつけて、何をしていたんだ?」
ようやく自分の執務室に戻ってきたロイは、エドワードの尾行に最初から気付いていたらしい。
「大佐の調査」
執務室に最初いなかったから、探しに出掛けたのだ。
行くって今回は伝えていたぞ?
「何か新たな発見があったかね?」
「大佐が女ったらしなのがよくわかった」
好意を最初から寄せている女性なら、ロイの行動に期待してしまうのではないだろうか。 悪い大人の見本だ。
「何だ、嫉妬してるのか?」
「するわけねぇだろ」
嫉妬というよりも、嫌悪である。
「残念だ。それより、たまにはどうだね、一緒に食事でもしないか?」
話が色々聞きたいし、とロイが続ける。
いつも断るのに、社交辞令なのかよくロイは食事に誘う。
絶対脊髄反射だろ、それ聞くの。
どれだけの女にその台詞吐いてんだよ。
苦虫を噛み潰した顔をしながら、「大佐の奢りなら」と答えたエドワードは別に嫉妬したわけではない、とそう心の中で言い訳した。 ロイはいつも断るエドワードの答えに一瞬目を瞠ったが、にこりと笑ってみせた。