「あ、大佐だ」
声を出して、自分が直ぐにロイを見つけ出したことに驚いた。
しかも、ロイの横には女性がいる。
軍服ではないところ、市民だろう。きっとデート中なのだ。
そして、驚いたことにロイもエドワードに気付いた。そして、その隣の女性も。
何故わかった?
しかも、二人が近付いてくる。ロイは少し嫌そうなのが、いい気味だ。
「有名な鋼の錬金術師さんでしょ」
活発で明るい性格らしく、笑顔が眩しい。
「あ、はい」
歳上の女性には弱いエドワードはそう頷く。
「やっぱり!有名だから会いたかったのよ」
「はあ」
鎧の身体をしているアルフォンスが鋼の錬金術師だと間違われることが多いのに、何故かその女性にはわかったらしい。
「まだ東部にいるの?」
はい、と頷く。
「じゃあ、良ければ話を聞かせて欲しいな。私東部から出たことないから、北部には行った?寒いところ。西部は?」
質問攻めをする女性をロイが手でエドワードと女性の間に入り込ませた。
「リリー、それよりも、食事に出掛けないか?」
「そうだったわね。マスタング大佐と食事に行くの。美味しいシチューがあるらしくて」
「へえ」
そういえば、今日図書館に出掛ける前、大佐に言われたな、シチューの美味しい店を見つけたんだ、と。一緒に行かないか、と。 シチューが好きだといつエドワードはロイに言ったのだろう。覚えはないのだが。
不可解な気持ちになりながら、ロイを見やると彼はかなり不機嫌そうだった。もちろん、後方にいるので、女性には見えない。
「またな、鋼の」
「ああ」
普段は自分が言う台詞をロイに言われるのは変な気持ちだった。 女性にさりげなく腕を貸すロイは紳士そのものだ。
「大佐、もてるんだね」
女性の勢いに押されて、沈黙していたアルフォンスが端的に感想を述べた。 羨ましいな、と言うアルフォンスは自分よりも成熟だと言えるだろう。
「仕事ちゃんと片付けたのか、大佐の奴」
何だかしっくりしない。
その胸のうちを隠しながら、エドワードは宿に戻ろう、とアルフォンスに話した。



翌日、軍の資料室で資料の調べ物をするために、軍部に再び顔を出した。
もちろん、上官であるロイの下へもだ。
「大佐、資料室にアルといるから」
「ああ、使いなさい。新しい資料がいくつか入ってるから」
特に話すことはないといった感じだろうか。ロイはエドワードに目を向けず、書類に目を通している。
「大佐、昨日シチュー食べて来たのか?」
暗にオレを誘っておいて断られたら直ぐ別の女性誘ったのかよ、と言ってるようだと思うのは、自意識過剰なのか。
「いや、別の料理を頼んだが」
「シチュー美味しいところなんだろ?」
やはり、ロイが特別シチューが好きではないようだ。
「リリーが食べていたが」
「何て言ってた?」
「美味しいと言っていたぞ」
ロイの言葉にも疑問符が言葉に現れている。
自分でも何が言いたいのかよくわからない。言葉がまとまらないのだ。
「そうなんだ」
「・・・食べに行くか?」
聞かれて、そうだ、その言葉を引き出そうとしていたのだと気付く。オレ、子供か、とそう思う。年齢的には子供だが。
大佐と食事って大体楽しいのか? 「今日?」
「君は直ぐにイーストシティーから出るだろう?仕事は昨日早目にやっていたんだ」
「暇だな、東方司令部」
そう笑いながら、「たまには行ってやるよ」とそうエドワードは答えた。

案内した店で、エドワードは美味しそうにシチューを食べている。いつもそんな歳相応な顔をしていたらいいのに、と思ったが、それでは利用されるだけだから今のままでいいのかもしれない。
食べ零しもあり、行儀が悪いが、これだけ美味しそうに食べれば、食物も満足ではないだろうか。
「鋼の、落ち着いて食べなさい」
「ふぁいふぁい」
「口の中の物を食べてから、話しなさい」
注意をするのは、忘れないが。
それにしても、とロイは不思議に思う。
「何で牛乳は嫌いなのに、シチューは好きなんだ?牛乳を使っているだろう?」
「わかんねぇ」
「中尉が君に出すドーナツも牛乳を使ってるのに」
「だからわかんねぇって」
一通り、食事を食べたエドワードは食後のココアを啜る。
それも多分牛乳が入っているだろうが、もうロイは口にはしない。 やっぱり子供だな、とは思ったが。
「気に入ったか?」
「美味かった!」
年相応な顔をして食事するエドワードは微笑ましい。
そして、素直なエドワードは可愛いと思う。部下たちが可愛がる気持ちがわかる。
ふっと、アルフォンスと二人、食事をしているときはどんな表情をしているのだろうと思う。アルフォンスに肉体はなく、借り物の鎧の身体だ。もちろん、食事は摂れない。
「喜んでもらえて良かったよ」
エドワードが素直だから、ロイも素直にその言葉をそう口にした。 ただ、エドワードに喜んでもらいたかっただけなのだ、とそんな自分の小さな好意に気付く。 昨日来た店にまた今日来るなど、普通ならしないが、ロイは満足だった。



たまたま大佐はシチュー美味しい店を知って、エドが喜ぶだろうなと思って誘ったという話(そのまま)
書いていませんが、大佐が不機嫌だったのは、少し気まずかったからです。







520センズ話


「ちょっと買い物に行って来る」
コートを手に、家から今にも飛び出しそうな兄さんに、ボクは口を出す。
「兄さん、お金あるか確認した方がいいよ」
財布の中身を念の為、確認する、兄さんはついこの前高価な工具をウィンリィの為に購入していたのだ。
昔みたいな国家権力は最早使えない身だ。よって、金銭の管理はしっかりしていないといけない。
「足りる?」
財布の中身を開いたまま、兄さんは固まっている。
「足りないの?」
財布を覗き込むと、その中にはコインが3枚入っている。
買い物するには足りないだろう。 「足りなくなるだろうから、お金貸すよ」
「ああ、サンキュー」
自分の財布から何枚か札束を探す。今日の夕食に何枚か変わるだろう。
「なあ、アル」
「何、兄さん」
「大佐の階級って何になったっけ?この前」
階級が変わっても、どうしても大佐と呼んでしまう。
突然の質問にボクは一瞬考え込んだ。
「大将じゃなかったっけ」
「だよな」
兄さんは笑っていて、嬉しそうだった。
大佐の階級が上がったのが、嬉しいらしい。もちろん、ボクも嬉しいけど、ボクと兄さんでは少し気持ちが違う気がする。
口では嫌いって言ってるけど、兄さん大佐のこと応援してるもんね。
「じゃあ、よろしくね」
「おお、いってきます」
兄さんは手を軽く振ると、元気に家を飛び出した。 外は日差しが明るく照らしていた。



ナチュラルにロイが出て来ません。