いつもの学校の屋上。
少しずつ、寒さがやわらいできたような気がする。
「恋愛よくわからないんだよな」
歌舞伎の演目で、恋愛が関わるのは当たり前の話である。 溜息を吐く。
「正直恋愛してぇって気持ちにもならないし」
紗英に恋愛感情を持ってるかもしれないという話は別にしても、である。 その本人が驚いた顔をしているが、顔を出雲は敢えて見ない。
「学校、仕事、誰かさんのせいでバイトで手一杯だし」
玄衞を睨むが、彼は知らない顔である。ばれてもいいのかな、とそれでも目が言っている。悪魔かお前は。
「心中する演目もあったけど、そこまでどうしてやるのかやっぱりわからねぇ。結末変えちまったくらいだし。まあ、今みたいに自由になれないときだったんだろうけどさ」
パンを齧りながら、出雲は台本を読む。パン屑が台本の上に落ちた。新しい台本だ。出雲はパン屑を手で払った。 あちこちできっと恋は落ちているのだろう。
しかし、出雲にはなかなか縁遠いものだった。
菅原兄弟、玄衞は黙っている。恋愛に関してはなかなか言い辛いらしい。
「まあ、いっくんの環境は恋愛し辛いとは思うわ」
代弁してくれた柚葉は、きっと出雲の気持ちが手に取るようにわかるのだろう。生まれ持った環境のせいか、暗黒の時代が多かった。何故自分は歌舞伎の家で生まれたのか。 そして、あれだけ嫌だったのに、歌舞伎の舞台に立っているのか。歌舞伎に対する気持ちに変化があるのは確かだけれど。
「國崎くんも、きっと恋をしたらわかるよ」
にこりと笑って、紗英が自分の手を取る。白い、男にしては綺麗な手。
紗英を意識してるせいで、顔が少し赤くなるのがわかった。
あーあ、何故こうなってしまったのか。
相手紗英だぞ。印象最悪、ナルシストだし、歌舞伎やってるし、同じ男だし。
言い訳ならでも出てくるのに。
可愛い女の子この学校ならいるのにな。恋愛したいとか思ったことはないけど。
「俺はまだわからなくていいや」
困った顔をして、笑ってみせた。
残念な顔をした紗英に、少し申し訳ない気持ちになる。
今のお前なら別の誰かを見つけれる筈だから、お前のいいところ俺はちゃんと知ってるから、どこかで自分のプリンセス探して来い。
考えるとちくりと胸が痛いが、気のせいだと思うことにした。


なんだかんだで紗英が自分以外に好きな子が出来たら、出雲絶対ショックだと思う。あれだけ好きだって言ってってってなりそう。そして、紗英はみんなに糾弾されそう( ̄▽ ̄)