「出雲好きな人出来た?」
学校、バイトも済み、居間で一服。
落ち着いたところに加賀斗からのその 突然の言葉にぶっとお茶を吹き出しそうになった。
「何だよ、急に」
「転校してそれなりになるでしょ。そういう相手がいてもおかしくないし」
高校の学校生活といえば、勉強、それに恋愛が主なものだろう。
「いねぇよ、そんなの」
横を向いた。 実はいるのだが、その相手の名前は言えない。 間違いだとまだ思っていたいし。
「恋愛をしたら、演技の幅が広がるしさ」
「全部演技に結びつけるなよ」
紗英が好きかもしれないと思ってから、少しずつだが、演じる女たちの恋愛感情の機微がわかりかけてきた気がする。 そうしてみれば、プラスな出来事だろうか。
流されかけようとなるが、断じて頭を 振る。
いや、男相手はどう考えてもおかしい。 顔がさーっと青ざめる。 そのとき、突然携帯電話の着信が鳴る。
しかも、相手は紗英からだ。
「ぎゃっ」
思わず悲鳴を上げてしまった。
「出雲、大丈夫?」
「ああ、大丈夫」
焦りつつも、電話に出る。 居間から出て、会話は聞こえないようにした。 自室に戻り、ベッドの上で寝転がった。
「何だよ、紗英」
「國崎くんの声が聞きたくなって」
何だか声が甘く聞こえる。
「何馬鹿なこと言ってるんだ」
俺は男だっつーの。 ていうか、お前は乙女か。
何度訂正したことか。
「今日会えなかったし」
紗英は舞台の関係で、今日学校に来ていない。 まあ、いないなあと正直思ったけれど。いつも見る顔がないと寂しいというか何というか。
まあなあ。あれだよな、俺本当にどうしよう。今ちょっと嬉しいんだよな。
惚れた弱味というやつか、と思いかけて再び頭をぶんぶんと振る。思考がどうしても偏っている。
明日会ったら、八つ当たりで殴ってやろうと物騒なことを考えながら、「今日の舞台どうだったんだ?」と話を続けた。その出雲の顔はとても穏やかなものだった。