「國崎くん」
部屋から出て来た出雲に紗英は声を掛ける。 すっきりした顔をしている出雲はよく眠れたらしい。
「何だ?」
「昨日の夜なんだけど僕のこと、待ってた?」
女性にこんなこと言うなんて、と思いつつ、つい、口にしてしまった。
昨日は梅樹に言われ、出雲に夜這いすることにしたのだ。 しかし、部屋を間違え、玄衛に夜付き合わされることになった。とてもではないが、思い出したくない。お陰で、寝不足だ。隈が出来た。 しかも、出雲が待ってると思うと、気になって仕方なかった。
「はあ?俺は普通に寝てたぜ」
出雲の様子は普段と変わらない。
「そ、そっかあ。ごめんね、変なこと言って」
梅樹、もしかして夜這いの意味間違えたんじゃ、と紗英は心の中で汗をかく。
部屋間違えて良かったかも。 本当に夜這いしていたら、今頃嫌われていたかも。 プリンスたるもの、やはり夜這いはしないでおくのが正解だ。
「紗英のうち、いい布団使ってるよな。ぐっすり眠れたぜ」
にこりと笑う可愛い出雲に顔が自然と綻ぶ。 出雲のこんな笑顔が見られるなら。
「いつでも来ていいからね!國崎くん」





紗英は朝食の準備を使用人にさせると、廊下を立ち去っていった。 紗英が手を振ったのに合わせ、出雲も手を軽く振っていると、肩に突然体重がかかる。
「よお。紗英から昨日夜這いあったか?」
肩を組まれ、背後から梅樹から耳に囁かれた言葉に目を剥く。 紗英の姿は廊下にないのが救いだ。
「はあ?梅樹、夜這いの意味わかってんのか?」
声を荒げてしまう。 そういえば、紗英は先程何と言っただろう。 夜待っていたか、と言っていた。あまり考えていなかったが、そういうことかと顔が自然と赤くなる。
「もちろん、知ってるぜ」
梅樹はそう自信たっぷりに言ったが、話を聞いてみると、梅樹は夜這いの意味を間違えてた。彼曰く夜中遊ぶことだと。 松樹じゃないが、馬鹿と梅樹に言いそうになった。
「来てねぇよ」
「待ってなかったのか」
意外だとの言葉。
「誰が待つかよ!」
夜這いをして来たら二度と紗英の家には行かないだろう。 しかし、紗英は紳士的だよなとそう思う。よく考えたら、と想像しかけて、途中でやめる。 何だか嫌なことを想像しそうになる。
「メイド。これでわかっただろう。兄貴が馬鹿なことが」
いつの間に起きたのか廊下で本を読みながら、出雲と梅樹の遣り取りを見ていた梅樹がそう言う。否定は出来ない。 そこへ、玄衛が部屋から出て来た。パジャマ姿だから、今起きたばかりなのだろう。
「玄衛、眠そうだな」
玄衛は必死に目を擦っている。何だか本当に小学生くらいの子供のようだ。
「紗英と昨日ずっと遊んでいたからね」
「へぇ」
あまりいい想像が出来ない。道理で紗英の目が血走っていた筈だ。
「楽しかったか?」
「楽しかったよ」
眠たそうだか、玄衛はそう言い切った。
「出雲は?」
聞かれて気付く。
そういえば、友達の家に泊まるのは初めてだ。個性的な奴等ばっかり何故か集まるけど。
「俺も何だかんだで楽しかった」と、そう出雲は笑みを零した。