海外公演。
正直楽しかった。
海外でも歌舞伎が認められ、称賛される。正に異文化交流。間違いなく、良い経験をしたと実感がある。 けれども、その間に変化があった。 背が伸び、筋肉がしっかりつき、顔付きが男らしくなった。 もう女性と勘違いされることはないだろいというくらいに。成長期が遅れて来たようだ。 望んでいた変化だった筈なのに、紗英はどう思うんだろう、と考えると鏡の前で固まった。 歓迎すべき変化だったのに、今は。 落ち着かない気分になる。 学校に行きたい気持ちが失われている中、それでも学校に行かなくてはならない。 学校に復帰する日はもう友達には告げていた。



校門でその友達は待ち構えていた。
「おかえり!」
出雲に近寄り、笑顔が満開な紗英に思わず、何か熱いものが目から零れそうになった。
「紗英、オレってわかるの?」
「僕が國崎くんのことわからないわけないよ」
自信たっぷりの言葉。
自然と顔が俯く。
こいつ、ほんとに馬鹿だ。
「國崎くん?」
顔を覗き込みそうな紗英の肩を掴んで、裏庭までずるずると無言で連れ去る。 周囲は何事かと、驚いているのを目の端で感じながら。
「紗英」
裏庭に人気がない。 好都合だ。 庭の緑がやけに目についた。
「紗英、俺のこと好きか?」
「え!」
突然の言葉に紗英は顔を真っ赤にさせた。 言葉が出ないのか、口をぱくぱくさせている。
「えーっと。好きなんだけど、それよりも大事にしたいと思っているよ」
やがて、出された言葉はとても真摯なものだった。 紗英に応えたい、とそう素直に思った。
「言わないといけないと思ってて」
以前よりも紗英と向かい合うと視線が近い。
「黙って聞けよ?」
「うん」
「俺、自分の顔好きじゃなかったんだ。身体付きも。歌舞伎やってるせいか、女みたいだったろ?つきまとわれたり、絡まれたり、しょっ中でさ」
え、と紗英は驚いている。
悪いときには襲われそうになったし、は流石に言わない。
「だから、紗英も最初からかってるんだと思ってて」
上手に言えない。 何て言えばいいのか。
「ありがとう、俺のこと好きになってくれて」
それだけは言えた。
「あ、あと、俺も、紗英が好きだよ」
告白なんて、初めてだ。 ずっと、目の前の男は好意を口にしてくれていたことを思い出す。よくあれだけ言えたものだ。
「國崎くんっ!」
突然紗英に抱き着かれた。 顔が一瞬で熱を持つ。
「おいっ。抱き付くな、学校で!」
「学校じゃなければいいの?」
顔を近付けて、にこりと笑う紗英。 何故か主導権を握られている。
「っ」
言葉が出て来ない。
「あと、紗英。俺、もう流石にわかると思うけど、男なんだけど大丈夫、か?鳴神ではお前のことからかってたんだ」
今更のネタばらしにどう反応するかなと思っていると、紗英は意外にもおかしそうにくすくす笑った。
「僕は國崎くんの綺麗な心が好きなんだよ?だから、関係ないよ」
「そ、そうか」
恥ずかしい台詞を、紗英は口にする。 とても出雲は言えそうにない。そして、自分だったら直ぐに受け入れられるだろうかと考えてしまった。きっと、無理だろう。
「國崎くんは僕のどこが好きなの?」
期待の眼差しが出雲に向けられる。
「え?それは」
また言語障害発生。重症かもしれない。
「それは?」
あー、もう。
「よくわからないけど、好きになっちゃったんだよっ。お前のせいだから、責任取れっ!」
びしっと指を指すと、にこりと紗英は微笑んだ。
「喜んで」