戦争というものが如何に残酷なものだと思い知るのは出兵してからだった。
人が人を殺す。
知っていたことだった。
しかし、実際に見てみなければわからないことがある。
炎が人を舐めていく。
少しずつ、飴のように溶かして。
そして、黒くなってやがて、地に蹲る。まるで、折り重なるように。
「マジかよ」
実際にロイの錬金術を見たことがあった。
人ではなく、それは物に対して向けられた錬金術ではあったが。
ロイの目は明らかに正常のものではなかった。
狂うのではないかとそう思った。
イシュバールの地は血で覆われている。
イシュバールの民と、そして、アメストリスの軍人の血で。
その中に自分たちがいることを実感していたつもりだった。
しかし、圧倒的な力の差を今、見せ付けて、その地に立っている男を見たとき、背筋が震えた。
それは、恐怖という感情ではなかっただろうか。
噂を聞いた。
圧倒的な力でねじ伏せている男の名前も聞いた。
それなのに、信じられなかった。
「マジかよ」
豹変、とは言えなかった。
皆、自分を守るだけで精一杯だ、
そういう表現を、使いたいと思っている。
ヒューズに気付き、振り向いたそのロイの顔は長年の親友の顔と変わらなかった。
「ああ、ヒューズ」
それでも、わかるものがあって。
傷付いているのだと。
顔が歪みそうになるのをひたすら耐えた。
「そっちは終わったのか?」
「終わったよ」
肩に携帯していた銃を地面に置いた。
重苦しいものでしかないその銃はがしゃんと音を立てた。砂がその拍子に舞った。
不毛な大地。今、ヒューズにはこのイシュバールがそう見えた。
「全くなあ、どうなってっちまってるんだろうなあ、世の中」
「ヒューズ」
「お前だって思ってるだろう?」
ただ、哀しそうな顔をしたロイに昔、一緒に願った夢が儚いものへ変わったことを知った。
―――そんな顔するなよ。
現実と理想は違うってわかってただろう?
それは、自分も同じ事だとそんなことは知っている。
「ロイ」
「何だ?」
「俺はな、戦場から戻ったらグレイシアと結婚する!」
「お前の帰りを待っているという保障もないのに」
溜息を吐かれた。
「グレイシアが浮気するわけないだろう!」
「俺はグレイシアを実際に見たことがないからな」
「いい女なんだ!俺の帰りを健気に待っているんだ!」
「そのうち他にいい男でも出来るんじゃないか?」
「てめ!何言い出すんだ?」
「そんなもんだろう」
遠く視線を逸らしたロイが何を思っているかは見当がついた。
いつ、アメストリスに戻れるのか保障が何もないのだ。
戦局は確実に、アメストリスに武がある。
それでも、人が、身近にいた人々が死んでいるのだ。
だからこそ、この戦争から戻って来れたときは、愛する者と結婚したいとそう思うのだ。
「グレイシア美人だから他の男にちょっかい出されてないかなあ」
遠い空の向こうに、グレイシアがいるのだとそう思う。
「うるさいから黙ってろ」
「お前、大事なことだぞ!もし、俺のグレイシアがだなあ…」
「先に行くぞ」
「もう歩いてるじゃねえか!」
ロイが軍人たちがいる方向に向かって歩いていく。
少し離れて、ロイの使う錬金術を見ていた者たちだ。
あちらこちらに点在している瓦礫の跡が町が存在していたのだと知らせてくれる、そんな場所に彼らはいる。
人を屠ったこの手が幸せに出来るなどとそんなことは考えていない。
でも、願うことは自由だろう?なあ、神様。
早く、よい時代が訪れますように。
他の者たちがこんな思いをしないように。
そう思って、ヒューズは砂漠の地に置いた銃を再び手に取って、歩き出した。
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