エドワードが任命されたのは、ホークアイの補佐だった。多忙な彼女を手伝い、時に上官に発破をかけるというものだ。
傍にいて分かったのは、とにかくこの上官はデスクワークが嫌いで動かないというものだった。
とにかく、無駄に逃亡を図る。何故なのだろうと思いもするものの、つまらないからだろうと推察はついた。
表情につまらないと書いてあるロイに呆れつつ、「早く仕事をしてください」と言うのが日課になった。
ホークアイの苦労が偲ばれるというものだ。
そんなことをしているうちに、次第にホークアイがロイの傍にいることは少なくなり、ロイの隣にいるのが多くなった。
「エルリック少佐」
手元の会議資料に目を落とし、文字を追っていたエドワードにロイから声がかかる。
「はい」
「何か面白いことはないかね?」
「そんなものがあるわけないじゃないですか」
思わず冷たい言葉を掛けてしまう。
未だ資料は読んでいる途中であり、これに目を通さないとの会議の内容についていかない。
ロイは決まって、エドワードに「どうか?」と聞いてくるので、資料に目を通すのも習慣になっていた。
勿論、エドワードの回答が会議に反映されるわけではないが、ロイはエドワードの実力を測ろうとしているように見えた。
が、今では違うような気がする。
「ふむ。何か催しがあるとかは?」
「お偉方のパーティーならありますが」
いつの間にかロイの日程を覚えてしまっている。
以前から、ホークアイはエドワードにロイは任せられないのか打診していた感がある。
動き易くなったと言うホークアイの言葉には勝利めいた響きがあった。
彼女が優秀であることは間違いない。しかし、そんな彼女も上官にはほとほと手を焼いていたらしい。
しかし、この上官はまるで悪びれていない。それを考えると、どうにも一言言ってしまわないと気が済まない。
「どうせ仕事が終わってから准将はデートなんでしょう?」
「何だね、嫉妬か?」
「違います」
そう否定するものの、他にも何か一言言ってやらない気がして付け加えた。
「それに、私も今日はデートの予定が入っておりますので」
同居人とで、しかも、男となのだが、女性と勘違いしているようなので、してやったりという気持ちだった。
が、実際にロイの表情を見ると驚きよりも怒っているかのように唇を引き結んでいる。
「准将?」
こんな反応は予想外だった。
にやにやしながら、君も成長したなというからかいの言葉の一つでもかけるのではないかとそう思っていたのだ。
「デートか。デートプランの方は立てたのか?」
「デートといっても同居人とですので、買い物ですが」
しかも、男とですが、とは言えない。
「丁度いい。私も同行させてもらおう」
何を突然、と思わずにいられなかった。ただでさえ、同居人が厄介なのに、そこにロイが入ってきたらどうなるか。
「ご遠慮させていただきます」
「何故かね?」
ロイの視線が鋭い気がした。
「何故って。別に。アンタデートの約束あるんじゃないのか?」
ばつが悪くなって口調が戻ってしまった。
しかし、それをロイは糾しはしなかった。
「そうだが、別に断って構わない。君の私生活を覗かせてもらうくらいいいだろう?」
「それって」
その女性がどんな思いをしようが、その後、口八丁手八丁で丸め込める自信があるということか。
それとも、好かれている自信があるからか。この男にとっては両方に違いなかった。
しかし、そんなことを糾弾する権利がエドワードにはなかったので、低い口調を保って言った。
「ほどほどにしておかないと、上から嫌味を言われますよ」
「言わせておけばいい」
悠然と事を構えている男には傲慢さが透けて見えた。
しかし、紛れもなくそれは自信からくるものだった。
多分、とエドワードには推測可能だ。この男は確かに座を手にするだろうと、そう思わせるほどに。
目標はエドワードとて大総統だ。それをこの男にはどう映っているんだろうか。軽くあしらわれているような気がした。
「別に私の私生活なんて見るほどじゃありません」
口調に不機嫌が混じってしまったのを、ロイは感じ取ったらしい。
流石にそれ以降口を開こうとしない。
それでも、仕事のほうは進めないといけないと悟ったのか、ペンを動かす。それが、気まずさに拍車をかけた。
「すみません、失礼します」
エドワードは気持ちを切り替えるために、執務室を後にした。
「あの、准将」
「何だ、ハボック」
今まで傍観者だったハボックが口を開いた。タイミングからして決していいことを言うのではないだろうと予想がついた。
「もしかして、大将、前のとこのがよかったんじゃないですか?」
「何だ?」
そんなこと一度も思ったことはなかったことだ。予想外の言葉に驚いていると、ハボックが続けた。
「大将、准将の下で働きたいって言ったわけじゃないですか。
俺としては、というか、俺たちにしてみれば嬉しいわけですけど。でも、准将仕事しないし」
エドワードを部下にするという提案に賛成していたのに、何故今更そんなことを言うのか。
「してるじゃないか」
仕事をしている、と目の前の書類を指し示すと、ハボックがやや呆れた顔をした。
曰く、山積みに積まれているじゃないですか、と言いたいのだろう。
そんなことロイにもわかっている。が、いつも同じような書類に目を通し、サインを施すという単調な作業に嫌気がさすのだ。
よって、口が動く。
「大将、根が真面目だからなあ」
エドワードが大総統を狙っていることが想起される。そう、狙える実力を彼は持っている。
だとしたら――?
「俺、大将について行こうかな」
不穏な言葉を放つハボックに「お前、残業にするぞ」と脅しをかけ、ロイはペンを握る手に力を込めた。
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