エドワードの休日は買い物で始まり、買い物で終わる。
平日が仕事で占められている中で、休日に済まさなくてはならない用事は多かった。
が、その中でも買い物はしなくてはならない必須なものだった。
同居人は出掛けているらしく、テーブルの上に置かれたメモには「夜帰ってくるから、買い物頼む」と荒々しい手つきで書かれていた。
同居人の性格が現れているかのようだ。そのとき、かちんと頭にきたものの、部屋を借りている身でとやかく言えはしない。
ので、仕方なくエドワードは一人、買い物に勤しんでいた。
買い物をしだすようになるとそれなりに、うまい買い物の仕方がわかるようになった。
どこの店が安いのか、美味しいのか、とかそんなことだ。
どういうのが新鮮なのか、もそれなりにわかってきてもいた。中にはサービスをしてくれる店もあって、そこは顔馴染みになった。
主夫みたいだなあとたまに苦笑いをしてしまうこともよくある。実際にはその通りだった。
同居人は決して料理を作らない。エドワードとて外食をすればいいのだが、勿体無い気がして、結局料理を作ってしまう。
なので、料理の腕はそれなりに上がったように思う。
「ああ、エド。いい物揃ってるから買ってきなさいよ」
そう声を掛けられ、呼び止められる。果物が店先に並べられているその店の女主人とは顔馴染みだ。
「例えば、このオレンジとかね。甘いし、新鮮だよ、どうだい?」
「うん、じゃあ、貰おうかな」
そう言って、こぶりなオレンジを一つ手に取る。
「毎度。何個買っとく?」
「十個」
「重くないかい?」
「全然」
子ども扱いするなよ、とそう思う。未成年なのは違いないが。
「またおいでよ」
他にも何個か買おうと思ったのだが、他にも野菜を買っているので、これ以上は持てない。
それに、飲料水も買っているので、これ以上は流石に重い。
「車、欲しいな」
車があると便利だ。司令部から近いこともあり、車は必要としない。それに、アパートの直ぐ近くには店が軒を連ねている。
ふと、目を上げたエドワードは上官の姿に気付いた。前も見た顔だった。
だから、間違う筈がないのだ。隣には知らない女性を連れていた。
小さな頭蓋に、すっきりした目鼻、華奢ではあるが、均整の取れた体。
ワンピースでその上にショールを羽織っているからか、大人しい印象を受けるが、表情がころころと変わった。
ロイはその女性との親密さを表すかのように優しい笑みを浮かべている。
何で、隠れてるんだ、オレ
何故かロイの死角である建物の陰に隠れてしまう自分の行動がわからない。
手には買い物袋を持っているが、別に隠れる必要はない筈だ。
それなのに、彼らがいなくなってから、出て行こうと考えている自分がいるのに、エドワードは気付いている。
忠告したのに、あっさり女と逢いやがって
何故か同行しようと言ったロイの言葉を思い出した。
壁に凭れているのも退屈で、手慰みに買ったばかりのオレンジを食べることにした。
買い物袋を地面に置き、その中から手が汚れることも構わず、オレンジの厚い皮を剥き、一房口にした。
「………酸っぱい」
エドワードがロイに気付いたように、ロイもまたエドワードに気付いていた。
人の波の中、確かに見たとそう思ったら、いつの間にか消えていた。
それを一瞬追いかけようかと思ったが、隣にいる女性が足を留めさせた。
背中だけだったが、見覚えのあるその身体はエドワード以外の何でもなかった。腕には不相応な買い物袋をぶら下げていた。
休日には買い物をする、と言っていたのを思い出した。
同居人の分もあるからだろう、その袋は幾分重たげでもあった。女性がいなかったら、手伝っていたのに、と悔いた。
かといって、そんな表情をするわけにはいかないので、ロイは終始、笑顔をその女性へ向けていた。
が、やはり、エドワードのことが気になった。
同居人と買い物をすると言っていたのに
エドワードしか見ていなかったが、同居人らしく男はいなかったように思う。
まさか、一人で買い物させているんじゃないだろうな。いや、別々なのかもしれないし。
そう色んなことを考えてしまい、そんな自分に苛々し、呆れていた。
だから、女性がロイの顔を覗いていることに気付いていなかった。
「マスタング准将」
呼ばれて、気付くなど軍人としての注意が足りない証拠だ。
「どうしました?」
笑顔を向けると、その女性は一瞬俯き、それでは駄目だとばかりに顔を上げた。
「あの、何か気に懸かることがあるんでしょう?私に構わないで下さって結構です」
「気に懸かることなんてありませんよ」
まさか、部下が一人で買い物をしているようだから、気になるのだ、とは言えない。
それほどまでに自分は部下思いな人間ではない筈だ。
「でも、後になってやっぱりということになるのは」
優しい心遣いだったが、今ロイはデート中なのだ。
このままではせっかく取り付けたデートが流れてしまう。
しかし、それでも構わないと思っている自分がいるのにロイは気付いている。
「私、お先に失礼しますね」
何を考えているのか知られてしまったのかもしれないほど、女性は潔かった。
ロイの前へと歩き出す彼女をロイは追いかけるべきだった。
もしかしたら、彼女もそれを望んでいるのかもしれなかった。しかし、ロイは彼女に感謝し、踵を返した。
きっと、彼女は自分のことはいいから、ということを理由に。そうしないと、ロイはエドワードを見失ってしまうかもしれないからだ。
ロイは群集を掻き分けながら、あの子供の姿を探した。この中にエドワードがいる筈だった。
しかし、見つからない。いないのか、と諦めようとしたとき、間の抜けた声がした。
「准将?」
振り向くとそこにいたのは紛れもなく、エドワードだ。確認したとき、ロイは例えようのない安堵を覚えた。
そして、同時に抱き締めたくなった。そんな衝動を覚えた自分が不思議だった。
やはり、手には買い物袋を幾つか抱えている。
「君のせいで、楽しんでいたデートが中止になった。責任を取りたまえ」
とりあえず、そう言うと「はあ?意味わかんねえ」とエドワードは勿論そう返した。
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