「准将、デートだったんじゃねえの?」
当然の問いにうまく答えられない。
「だから、中止になったと言っているだろう」
「わかった!あんたふられたんだろう。だよな、オレだったら、絶対アンタと付き合いたくねえもん」
その断言する口調に腹が立つ。誰のせいでデートが中止になったと思ってるんだ。
先ほどデートなどどうでもいいと思ったくせに、人間など勝手なものだ。
「失礼な。私ほどもてる者がいてたまるか」
「だってさ」
とエドワードはロイを品定めするかのように見遣った。
「アンタ女とっかえひっかえだし、全然誠実じゃないし、女だったら誰でもいいって思ってるんじゃねえの?
それってすごく傷つくんじゃねえ、本人からしてみれば」
「そんなことはないぞ」
そう強く否定するものの、その理由が浮かべられない。そんな自分をエドワードに知られているようでばつが悪い。
「私だって本命が出来れば大切にする」
何となく、そう付け足すと「ふうん」と興味なさそうに呟く。まるで、信用されていない。
「私の周りに群がる女性たちはみな、私の顔と階級が好きだけだ。私のことを好きなわけじゃない。
それなのに、本気で相手をしてみろ。馬鹿を見るだけだ。
だったら、適当に愛想よくしておいた方が印象もよくなるし、いいじゃないか」
弁明しようとしたところ、自分の計算高さを疲労する形になってしまった。
何となく、そのことをエドワードに知られたくないとそう思っていた。
「それより、何だ。私に気付いていたなら、声を掛ければよかったのに。君らしくない」
案の定、ロイが思っていることはエドワードには想像がつかなかったことらしく、驚いている。
エドワードはそんな風には見えなかったけど、とそう呟いていたが、次のロイの言葉に膨れっ面をしてみせた。
幼さが浮き彫りになり、そのことにロイは少し安堵した。
「そんなことをしてみろ。アンタデートの邪魔するなとばかりにあしらうだろ、虫みたいに!」
「そんなことするわけないじゃないか」
「嘘吐け!前やった」
覚えがなかった。しかし、エドワードがそう言う以上やったのだろう。
したかもしれない、とそう思っていると、なら、と疑問が湧いた。
以前のロイだったら、間違いなくそうしていただろう。
それなのに、声を掛けられたら、ロイはエドワードと少しでも話をしたいとそう思っていた。
いつの間にか、ロイの中でエドワードは大きくなっていることに気付いた。
おかしいな、私は少年愛好者じゃないぞ、何で女性ならともかく、こんなガキに
いつの間にか背丈が伸び、以前とは目線が違う。それでも、未だ子供でしかなった。いや、子供であった筈なのに。
横から覗いてわかったことがある。
深い蜜色の瞳、痛んでなさそうな見事な金髪、均整の取れた身体。
こうしてみると、エドワードは綺麗な青年になっていた。
もう少し、月日を重ねれば、いや、重ねなくても女性の目には魅力的に映るのではないだろうか。
一瞬、ロイはエドワードが自分の手の届かないところまで行ってしまったのだとそう思い、手を伸ばそうとした。
そこへ、不意に荷物が渡される。中身は飲料なので、なかなか重い。
「お前、普通上官に荷物を持たせるか?」
「部下に思いやりがあるなら持て」
上官だと本当に思われているんだろうか、とそう思いながらも初めから持つつもりだったので、
ずんずんと一人、歩いていくエドワードに大人しく従った。
買い物は既に終わっているらしい。
「エド」
「何だよ」
「お腹が減った」
時刻は11時を回っている。この時間帯では既にランチが始まっている。
「その辺の草でも食ってろ」
「お前、私のことを上官だと本当に思っているか?」
素直になったら、エドワードが冷たい。
「美味しい店を知っているんだが、入らないか?」
「外食ばっかりしてると太るぞ。おっさんなんだから気をつけないとあっという間に糖尿病にまっさかさまだ」
「知っていると思うが、私は…」
一応体調に気を遣っているのだろうが、おっさん呼ばわりはないだろう。
「32歳。独身で、女好きで、節操なしで、大尉には頭が上がらないサボり魔で、
雨の日は無能な錬金術師で、一応准将で、オレの上官。何か間違ってる?」
ロイの言葉を遮ってまで続けたエドワードの言葉に不満で口を尖らせた。
「それだと、私は駄目な人間に聞こえるんだが」
「聞こえるように言ってるんだよ」
そう言って、エドワードは歩き出した。
「何処に行くんだ?」
「何処ってアパートだよ」
袋の中身が腐っちまう、とそう言うエドワードに賛同する。
「君の手作りの料理を食べさせてくれるのか?」
調子に乗っている気がしたが、せっかくだから、調子に乗ってみることにした。
「言っとくけど、後で食べなきゃよかったとかはなしだぞ」
譲歩の言葉以外の何でもない。
「腹が減っているからな、何でもうまいと言うぞ」
「そりゃあ、よかった」
このまま会話を続けていれば、何か聞いてはいけないことを聞いてしまう気が、エドワードにはした。
これはよくない
具体的にはわからない。それでも、これはよくない、とそう思った。休日にロイの姿を見た、そのときから予感がしたのだ。
群集のあの中から、簡単にロイを発見して。
ロイもエドワードを見つけて、女性と別れてまでわざわざ追いかけてきてくれたことも嬉しいとそう思うなんて。
ロイの女性への気持ちを聞いて、決して本気ではないことを知ってしまって。
袋を何度もわざわざ抱え直して、動揺を押し隠すのに必死だった。
エドワードの同居人の借りているアパートまでには距離的にはそう遠くない。
それでも、エドワードにとっては遠い気がした。背中が気になって仕方がない。
足音がする度に、背後にロイがいることを意識した。
そんなエドワードに構わずに、ロイは「一緒に歩いてくれてもいいのに」と子供のようなことを言ってくる。
お前、本当に32歳か。
アパートは大きくないが、小さいわけでもなかった。
2LDKだが、手狭というわけはなかった。あまりに大きくても居心地が悪かっただろう。
買い物袋を床に下ろし、「その辺に座ってて」とそうロイに言う。
とりあえず、使わないものは全て冷蔵庫にしまい、それ以外は手に持った。
「手伝えることがあったら、手伝うが」
「アンタ料理出来ないだろう」
一緒に料理など今のエドワードの心境では出来そうにない。
本当によくない、とそうエドワードは自覚した。
「同居人は?」
「夜に帰ってくるから、気にしなくていい」
それまでは、二人きりなのだ、とそのことに思い至って、エドワードは心臓が痛くなるのを感じた。
「夜に帰ってくることが多いのか。今日は日曜だろう」
「適当だから。今日も適当にやっていると思う。オレとしては好き勝手にできるからいいけどね」
台所に立ち、エドワードは料理の準備を始めた。
フライパンを手にとったものの、何を作ろうかなどは考えていない。
とりあえず、野菜あるし、野菜炒めでいいか、と妥協案を出す。
コンロにフライパンを置いた後、包丁とまな板を取り出し、
買ったばかりのキャベツを刻んでいると「おお、上手だな」とエドワードの真向かいで馬鹿にしたようにロイが言う。
することがないので、エドワードの料理を見守ることにしたらしい。
「アンタ邪魔だから、向こうで本を読んでろ」
本気で感心しているのに、気付き、なんだかうんざりしてきた。
ダイニングには本は一つも置いていない。
置いていると、同居人がコーヒーや酒やらかけてしまい、台無しにすることが度々あったからだ。
なので、共通の空間であるダイニングキッチンのエドワードの物はコップやスプーンくらいのものだろう。
たまに本を持ってくることもあるが、私室に片付けることを日常と課している。
「見るくらいいいじゃないか。減るもんじゃないし」
「アンタに見られると確実に何か減るから!」
何が減るんだ、とそう口の中で呟いているロイは無理やり、エドワードの私室に押し込んだ。
その中にはエドワードが図書館から借りた本が置いてあるので、時間潰しには困らないだろう。
一段落した、とそう思っていると何の前触れもなく、扉が開いた。
エドワードは顔を引き攣らせた。
アパートへ入ってくる者は決まっているからだ。
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