「何であんなこと言ったんだよ!絶対准将に誤解された」
男が帰って来るなり、エドワードはそう言わずにいられなかった。 エドワードは玄関に入ったままの男に、自分はダイニングに入ったまま文句を言っていた。 男は何処吹く風と言ったように、ダイニングへとやって来て、エドワードと視線を重ねたと思ったら、どかりと腰を下ろした。
「じゃあ、どう言えば良かったわけ?俺たちはただの同居人ですって言えばお前は満足なんだ?」
「それは…」
エドワードはその男の言葉に素直に頷けなかった。
「准将ってお前の上司なんだろ?偉い奴なんだよな。だったら、話せばいいじゃん。 お前が仕官学校時代に何されたのか。だから、俺たちは付き合ってるふりをしてるんですって」
「そんな、そんなこと言えるわけないだろ!」
口の端が引き攣る。エドワードの怒りに気付かないふりをして、男は言葉を続ける。
「だったら、そう怒るなよ。俺が機転きかしてやらなかったら、やばいことになってたんじゃねえの?」
「アイツはそんなことしない!」
怒りに震えているエドワードをちらりと見ただけで男は意に介した様子はない。
「お前さ、そんなことないって言うのやめたら?実際にお前は思ってもなかった目に遭ったわけだし。 それに、准将わざわざデート中止してお前を追っかけてきてさ、何かあるなあって思わないわけ? 少なくとも嫌われてたら追いかけたりしないだろ」
「オレは一応部下だし」
見かけたら、声くらい掛けるのが普通だろう、と口の中で呟くと、じろりと男は睨んでくる。その視線にたじろぐ。
「まあ、俺にはどうでもいいことだけどさ。お前さ、そんなこと言ってるとその准将に誤解されたままだぞ」
「お前の所為だろ!」
怒鳴ると男から溜息が返って来る。
「何だよ、その溜息!」
「お前、そいつのことが好きなんだろ」
「何でオレがあんな奴好きなんだよ!」
「いちいち怒鳴るなよ。だったら、誤解されたままでもいいじゃないか。困ることなんて何もないだろう」
「オレ、明日どんな顔でアイツに会えばいいんだよ」

困ることなんて何一つないわけじゃない。
嫌われた、軽蔑された、そう思うと何もかも話してしまいたい。それでも、そんなこと言 えるわけがない。
――――余計嫌われる。
笑い話にすればいいのだ。そうも思うがどうしても抵抗がある。

「でも、准将も案外いい加減なんだな。節操なしっていうかさ、男でも女でもお構いなしなんだ」
「だから、アイツはそんな奴じゃないって言ってるだろ!」
「あんな美人と付き合ってるのに」
「…………誰と?」
思わず訊いてしまった。
誰彼構わず付き合っているのは知っている。しかし、男の口調は特別を感じさせた。
「誰だって。お前知らないの?いつも傍にいるのに?」
ロイの一番近くにいるのはホークアイだ。しかし、ホークアイと考えるには合致しない。 彼らはそんな関係ではないのだ。ホークアイの決意は聞いている。
「まさか、ホークアイ大尉なんて言うわけじゃないだろうな」
「違うの?」
「当たり前だろ!」
「だって、男と女だぜ?あんな美人を副官にしてさ、手をつけてないって考えにくくねえ?」
「あの人たちはそんな関係じゃねえよ」
「お前は馬鹿じゃねえの?」
「何だと?」
どうしてこの男はいちいちエドワードを馬鹿にする発言を繰り返すのだろう。
「女と男が何してるのかわからねえほどお子様じゃねえだろ。大体そんなの誰でもやれるんだよ。お前だってそうだろ」
顔が引き攣る。この男の言葉など聞きたくない。あの二人の関係が汚されるようで。
「それが普通だろ」
「うるさい!」
遮ろうと、立ち上がり、思いっきり男を見下ろした。
「――――出て行く」
「待てよ」
ふと腕を取られ、ソファに押し倒される。
「お前、何を!」
「俺さ、ずっと言ってなかったけど、バイなんだわ」
「バイ?」
意味わかんねえ、と更に言うと、咽喉元に唇が押し付けられた。
流石にエドワードも意味を知る。
「ちょ!お前女が好きだって言ってただろ!有り得ないから!笑えねえから!」
抵抗すると更にきつく吸い上げられた。
「痛い!」
「だって、お前准将好きなんだろ?」
咽喉元に吹きかかってくる息が熱い。
「違うって言ってんだろうが!このボケっ!」
「だったらさあ、好きだって言った後、どうするつもりだったんだ?」
大人しく受け入れるはずがないのに、男が未だどこかしら触れてくる。
「そこで終わりってわけじゃないんだろ?何処の純愛ドラマ?想像くらいするだろ、そいつとやること」
沈黙しているエドワードの下肢に男の無骨な手が触れてくる。
「そういうことを考えてたらさ、お前結構可愛いし、俺もちょっとやりたくなったっつーかさ。 女とばっかやるんじゃなくて、男ともやると面白いかなってしんないしさ、案外いけるかも」
しれないし、と言おうとした男の言葉は飲み込まれた。エドワードに思いっきり突き飛ばされたからだ。 ソファの目の前にあるテーブルに男はぶつかり、テーブルがその勢いで倒れた。
「痛えじゃないか、このクソガキ!」
「そんなオレに欲情したのは誰だ、この変態!」
頭を打ったのか、男は頭に手をやる。
「全く。この乱暴者が。調教するぞ?つうかマジかよ、血が出てやがる」
べったりとついている掌には、その通り、血がついている。打ち所が悪かったらしい。
「うわあ、マジかよ、変なところ打ったんじゃねえよな。つうか、俺死なないよな」
手が震えている。
信じられない、と目が言っている。最初、エドワードは演技なのだとそう思っていたが、沸々と不安が高まっていくのを感じていた。
「医者行かないと。頭からの出血ってマジでやばいんじゃなかったっけ? っつかこれじゃあ、変態カップルの痴話喧嘩って思われそうで、事情言えねえ。 踏んだり、蹴ったり。っておい、エド、何処行くんだよ!」
エドワードは男から離れて闇雲に走っていた。行く先が何処なのかはわからない。それでも、走らずにはいられなかった。