それにエドワードも気付いたらしい。一瞬顔が歪みそうになったのをロイは見た。
「他に仕事がありますので、失礼します」
そう言ってエドワードが執務室から出て行った。
「………お前、ガキ相手に何むきになってるんだよ。一方的に嬲って。
エドじゃなくてもあんな言い方をすれば相当嫌な気分になるぞ」
ヒューズはタイミングを見計らって、執務室に入ったらしい。
宥められて、自分の気持ちなど知らないくせに、とそう言いたくなった。しかし、そんなこと口が裂けても言えない。
「やる気がない者にいてもらっても迷惑だろう」
そう主張する。
「確かにそうかもな。それでも、お前はエドを自分の部下に選んだ。決めたことを簡単に覆すな」
「説教はよしてくれ。今は聞きたくない」
拒絶にヒューズは不快そうに眉を顰めたが、それもやがて緩み、諦めが現れた。
「お前も頑固だからな」
そう言って、封筒をロイに差し出した。
「……………エリシアの写真なら要らんぞ」
「お前、俺の天使によくそんなことを言えるな。エリシアの写真をもらえるなんて幸運だと思えよ!」
「何だ、本当にエリシアの写真なのか?」
「お前にエリシアの写真を渡すわけないだろ。エリシアが穢れる」
私は病原体か、とそう言いたくなったが、その封筒の宛先が目に入るとそんなことどうでもよくなった。
手紙はアルフォンス・エルリックからだった。
「お前、何でこれを!」とヒューズを見遣ると、彼は薄く笑った。
「俺の住所しかわからなかったからだろう」
「そんな馬鹿な。私はリゼンブールにも手紙を送ったぞ」
「え、そうなのか?なら、何で俺のところだったのかな?」
しかし、深い追求はせずに、ヒューズはロイに手紙を渡した。
ロイは不思議な思いで一杯になりながら、その封筒を破いた。
中から取り出した手紙にはアルフォンスらしい丁寧な言葉が連なっていた。
思わず、その文面をなぞってしまう。
久し振りです。マスタング准将。
本当は直截司令部に送ろうと思ったんですけど、検閲されるのが嫌で、ヒューズ大佐に送りました。
突然の手紙で驚いたと思いますが、以前から送ろうと思っていたんです。
この前、兄さんから手紙が送られてきて、中央司令部に配属が決まったと書かれていました。
多分、兄さんは准将にそのことを話していなかったんじゃないかなと思います。
絶対驚くだろうなって書いてありましたから。
それでも、できたら兄さんは中央司令部で准将と一緒に働きたかったんじゃないかなと思います。
准将には、返せない恩があるから。
そんなこと兄さんは口が裂けても言わないでしょうけど。
兄さんにも手紙を書いたんですけど、住所を教えてくれないから、兄さん宛の手紙もヒューズ大佐に同封しました。
多分照れくさいからだと思うんですけど、住所くらい教えてくれたっていいと思います。
兄さんの仕事振りはどうですか?
あの兄のことだから、心配は要らないでしょうが、全部一人で背負い込もうとすることがあるから、心配です。
なので、准将、兄さんのことお願いします。
それから、たまには顔を見せにリゼンブールに来るよう言ってください。
一通り、ロイはその内容を読み終わると、もう一回その内容を反芻した。
アルフォンスのエドワードに対する心配という二文字が伺えた。当然のことだ。
省いているが、恐らくアルフォンスは軍人になるのだということをエドワードから聞いたのは身体を取り戻して
直ぐのことではないだろうかと思う。
アルフォンスは当惑したのではないだろうか。
本当はもっと書きたいことがあっただろうに、それを自分の胸に収めている少年の姿が瞼に過ぎった気がした。
「何て書いてあったんだ?」
手紙の内容を見ようとするヒューズをロイは押しのけて胸元に手紙を忍ばせた。
「何かいいことが書いてあったんだろう?」
ロイの表情に何か変化があったというのだろうか。
ロイはそんなヒューズに一瞬顔を向けたが、直ぐに視線を逸らした。
「………エドワードはうまくやれているのだろうかと書いてあった」
「アルの心配は当たっていたっていうわけだ」
笑うところじゃないだろうとヒューズは睨むが、効果はない。
「エドの奴はお前相手によくやってるんだろう。たまに聞くぞ。お前だってそれを認めているんだろう?
それなのに、やめたらどうだとか口にするのはよせよ」
そんなこと私にもわかっている。しかし、それでも私は――。
唇を噛んでいると、ヒューズはロイ相手に説得を諦めたのか「じゃあ、俺はエドに手紙渡してくるわ」と立ち去ることを決めた。
「それくらい私が…」
やる、と言い出すとヒューズはやめとけと目で言った。
「話をしたいって思ってたんだ。たまにはエドを貸せよ」
その言い方に何か違うんじゃないかとそう思った。
「あの子は私のものじゃない」
そう訂正した。
そう、昔からあの子はいつの間にか手元から飛び立とうとする、小鳥のようだった。たまに気まぐれに擦り寄ってくる、そんな。
口調に苦味が混じったのはそのことを思い出したからだろう。
ヒューズが一瞬だが、目を瞠ったのが視界の隅に移ったような気がする。
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