エドワードは暫く動けなかった。動こうとしても足が動かないのだ。
ロイの言葉はどうしようもなく衝撃的だった。要らない、と言われた気がした。
まるで、子供が壊れた玩具を捨てるように。
捨てられる、とそう思うと背筋が冷えた。
壊れた玩具のように?
簡単に?
ロイにとってエドワードとはその程度のものでしかないのだろう。
簡単に換えが聞くような?
廊下で一人立ち尽くしていると「何かあったのか?」と声を掛けられた。
声に聞き覚えがあって、思わず顔を上げるとそこにはブレダの顔があった。
そういえば、ブレダはハボックと一緒に何処かに行っていたっけとそのことを思い出した。
「別に何もないけど」
気を遣ってくれているのに、素っ気無い言葉を返してしまう。そんな自分に嫌気が差す。
「そうか。何だ?今から何処かに行くのか?」
「ちょっとこの資料戻してこないといけないし」
数枚の資料だ。後で戻せば済むことなのだ。それでも、何かしていないと息苦しい。
そんなエドワードにブレダは何か言いたそうな、そんな顔をした。きっと嘘だと見抜かれているのだろう。
「――オレ、准将に嫌われるようなことをしたかな?」
答えなど求めていない。これはエドワードの独り言だった。
「そりゃあ、嫌われるようなことたくさんしてるけど、でも、
それは別にオレが准将のこと嫌いだからそういうことしてきたわけじゃないのに」
振り返ってみれば、エドワードはロイに対しておよそ恩人だとは思えないことばかりしてきた。
「オレ准将に…」
捨てられるのかな。そこらに落ちているゴミのように。
見捨てんなよ、オレ、アンタに捨てられたら、どうすればいいんだよ。
だったら、最初からオレのこと放っておけばよかったじゃんか。
アンタ、オレの馬鹿みたいな夢物語に付き合ってくれたじゃねえか。
無理だって言わなかったじゃねえか。
それなのに、今になって捨てるなよ。だったら、最初からオレのこと放っておけばよかったじゃねえか。あのときに。
沈んでいた思考を浮上させたのは、ヒューズの場違いな声だった。
「エド!丁度よかった。これ、お前に手紙だ」
ブレダはそれを期に邪魔になると思ってか、執務室に戻っていった。
ぽんと肩を叩かれ、ヒューズから手紙を渡された。手紙の主はアルフォンス・エルリックだった。
「大佐、これ何で持ってんの?」
「お前、アルに住所教えてないんだろ?そそれでアルが俺のところに手紙を送ってきたんだよ」
そう言われてアルフォンスに済まないことをしてしまったな、と今更ながら反省した。
二人きりの兄弟なのだ。それなのに――。
もし、これが反対の立場だったら、とそう思うと泣きたくなった。
「たまには手紙を書いてやれよ。安心するから」
エドワードはアルフォンスの手紙を読もうと封筒を破こうとして、やめた。そうしたら、泣いてしまいそうだ。
「大佐ってお節介だよな」
だから、代わりにそう言った。本当にそう思った。
「何かあったなら言えよ。たいしたことは言えないが、話くらいは聞けるから」
本当にお節介だ、と思わずにいられない。涙腺が決壊寸前だ。
「大佐って本当にお節介。でも、本当に何もないから」
伸ばされたヒューズの手を振り解き、そう笑顔で言う。何故かヒューズの顔が痛々しそうに映るのは気のせいだろうか。
「あんまり、我慢強くなるなよ。俺も他の奴もお前の仲間でいるから。仲間って言うのは互いを守ってくれる存在なんだから」
ちょっとくさかったかな、とヒューズは笑って言う。
思わずエドワードも笑っていた。
「大体、ロイに何か言われたくらいで凹むなよ。言い返してやれ。
俺みたいな優秀な奴を部下にしてるんだ。それを誇りに思えってな」
その言葉にロイとの遣り取りを聞かれていたことに気付く。が、そのことをあれこれ言うことはしなかった。
「じゃなけりゃ、お前の部下なんてこっちから願い下げだって言ってやれ。それくらい言わないと目が覚めないからな、あいつは」
血の気が多いからなあ、ああ見えてあいつは、との言葉は首肯にしくかった。そんな場面を見たことはない。
「いつも冷静なあいつが取り乱すのは大抵お前のことなんだよ。
あいつをそうさせるお前は本当に大した奴だよ。本当はもうわかってるんだろ?」
その言葉にエドワードは無言だった。
代わりに頬に熱が集まるのがわかった。
エドワードはひたすら横を向いてヒューズの問いを無視した。
本当はわかっているのだ。
それでも、傷つきたくない。傷つくのが怖い。オレはずっとアイツに甘えてきて、そこから放り出されるのが怖い。
変化が怖い。ずっとこの位置は居心地がよくて、それはアンタの犠牲を元に成り立ってきたのに、
わがままなことを言ってるのはわかってるけど、それでも怖い。
「応える気がないのなら、きっぱりと言ってやれ。そうしないとずっと傷付けあうことになるぞ、お前もあいつも」
目に見えていることを言われて、それでも、エドワードは何も言えない。
足も動かない。ただ、後でアルフォンスの手紙を読もうと決めた。あの優しい弟の声が聞きたい、とそう思った。
→
ヒューズさんが次回を打開しようと動いてくれましたが、それはエドワードさんを追い込むだけでした(おい)
エドワードさんは准将の気持ちに気付いてましたが、敢えて考えないようにしてたそのことを口にされ、
どうるればいいのか判断に決め兼ねてます(説明)
次回新展開、好ご期待!?
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