それ以降、ロイはエドワードを見なかった。何故なのか知らない。 が、とうとう愛想をつかされたのだろうとそう思った。ここまでの流れからすれば当然のことだ。 もうどうでもいいとロイは思う。そうだ、女性と連絡をとろう。誰でもいい。 デートの一つでもすれば、以前の自分に戻れるだろう。
いつもの自分とは何なのだろうとふと思う。なんだか、不意に何もかもわからなくなった。 仕事を淡々と片付けている中でもふと我に返ると、どうして私はこんなことをしているのだろうとそう危ぶむ。 それはふとした疑問だった。何故なのかその理由はわかっている。自分の野望のためだ。 そのためには、どんなことでもすると決めている。それなのに、ふとしたことで揺らぐ。 自分の決心はその程度のものだったのか、と笑いそうになった。その度に。
「准将」
エドワードの代わりにホークアイが再びロイの傍にいる。ただ、エドワードがいないだけだ。 それなのに、違和感がある。理由はわかっている。が、認められるわけがない。
「エドを迎えに行かないんですか?」
ブレダの言葉は耳に届いている。が、聞こえないふりをした。他にどうすればいいのだ。
「准将」
焦れたようにブレダが再び呼びかける。
「何だ、うるさいな。何で私があのちんちくりんを迎えに行かなくちゃならんのだ。ガキじゃないんだ。 いちいち心配するようなことでもないだろう。自分のことは自分でやれる」
「でも、准将。あのエドがいつまでも戻って来ないなんて有り得ないことですよ。真面目な奴なのに」

何だ、その言葉は、私が悪いと言うのか。

「だったら、他の暇な奴が行けばいいだろう。ハボック、お前が行け」
そう命令するも、ハボックは動かず、ひたすら書類と睨めっこをしている。
白々しい。
「ハボック、命令だ、行って来い!」
「俺は未だ仕事が終わってないんです。准将、行って来てください」
何だ、それは。
ロイの中で際限なく怒りが渦巻いている。
「何か用事が出来たから帰りが遅いだけだろう」
「でも、准将、エドに酷いこと言ったでしょう?エド、それを気にして」
何故、ブレダが知っているのだ。エドワードが話したのか。 今にも風船のように穴が開きそうな感情に蓋をする。
「あのガキがそんなことを気にするタマか。私はやめるきっかけを作ったまでだ」
「どういうことですか、准将?」
部下五人の顔が途端に険しくなる。が、ロイは気にしていない。 それよりも、今にも破裂しそうな感情を押さえつけるのに一生懸命だ。
「准将、前、大将の決意を聞いたじゃないですか」
この場面で口を開くのは、ホークアイの筈だった。諌める役目はいつでも彼女だ。
しかし、その彼女が口を開く前に、ハボックが口を開いた。
「だから何だ」
ああ、もう放っておいてくれ。
「俺嬉しかったんすよ。あれ聞いて。一緒にやってく仲間が増えたってそう思って。 一緒の理想を持ってるんだってそう思って。准将だって嬉しかったんでしょう?だから、エドを自分の部下にしたんでしょう?」
「だから、うるさいと言ってるだろう。いい加減にしないと燃やすぞ!」
発火布を擦りつける真似をすると、一瞬ハボックは怯んだ。が、言わないといけないと思ってか、重たそうに口を開いた。
「准将は今の大将を受け入れられないんですよ。昔と違うところを」
そんなことはない、と言い切れない自分を気付かされる。
押し黙ったままでいるロイにホークアイが背中を押す。
「エドワード君は優秀ですから、ぐずぐずしていると他の将官にとられてしまいますよ」
そして、出世の駒として利用されるだろう。賢いのは認める。が、それだけでは、処世術には物足りない。 ロイが一番懸念していたことをホークアイは指摘した。 不承不承という形で、ロイは立ち上がる。
「未だ仕事は終わってないと言うのに」
「後で片付ければ済むことです」
ホークアイの揺ぎ無い瞳を見ていると自分は悪くないと思いつつも、罪悪感に駆られる。 気が乗らないと思いつつ、ロイは執務室を後にした。 行き先がわからないことに出てから気付いたが、以前エドワードを資料室で見かけたことを思い出し、資料室に向かった。 しかし、扉を開けたその先には、エドワードの姿はなかった。
溜息がふと漏れた。
他にエドワードが行きそうな場所がわからない。恐らく以前ならば簡単にわかっただろう。 そう思うと何故私があんなガキを捜しに行かなくてはならないのだ、と部下五人を恨めしく思う。 アルフォンスの兄をお願いします、という言葉が蘇る。 電話ではなく、手紙にしたのは、不定期な仕事をしている自分たちを気遣ってのものなのだろう。 アルフォンスの声が聞きたったかなとそうふと思う。
「済まない、アルフォンス。私には無理だ」
エドワードを傷付けてしまう。
仕方なく、ロイは気が向かないものの、調査部を訪れた。ヒューズはエドワードに手紙を渡している筈だ。 だとしたら、エドワードの行き先を何か知っているかもしれない。
「ヒューズ」
長年の親友に声を掛けるのにこれほど疲れると思ったのは初めてだ。それが罪悪感からくるものだということを漸く、ロイは認めた。 ヒューズは受話器は受話器片手に通話をしていたが、丁 度いいタイミングであったのか「では、失礼します」と受話器を元のところに戻し、 ロイへと顔を向けた。
「何だ、ロイ」
数時間前の会話が会話なだけに、気まずい。しかし、言わなければならない、と話を切り出した。
「エドワードが何処に行ったか知らないか?」
「知らないぞ、俺は。エドと別れてから仕事に戻ったし」
そうだとわかっていた。
「おい。エド戻ってないのか?」
「いないから聞いたんだ」
「お前なあ」
そこから先は小声で警告だとばかりに「愛想つかされるぞ」と言った。
「それで結構だ。大体何で私があんなガキに振り回されなきゃならんのだ。納得がいかんぞ!」
ヒューズが呆れた顔をしている。
「お前なあ」
何だ、お前も言うのか。私が悪いのか。
不機嫌に黙り込むロイにヒューズはかける言葉を失ったようだ。そんな静寂を破ったのは、女性の声だった。
「あの、私さっきエルリック少佐を見かけましたよ」
「何処で?」
ロイとヒューズに聞かれ、女性は困った顔をした。
「司令部の入り口で」