おかしい、とそう思ったのだ。いつものとロイと様子が違うことに。 何かあったのだろうと察していても、いつもと同じに振舞わなければならない。 何故なら、ホークアイはロイの副官なのだから。この男の背中を守っていくと決めたのだから。 それでも、嫌になるときは嫌になるのだ。
「どういうことですか、准将?」
エドワードが休暇を取っているのだ。しかも、一週間だ。 ただでさえ、多忙なスケジュールをこなしているというのに、エドワードがいなくなるのは痛い。
「休暇を与えたんだよ、彼には」
「そうではなくて、何故この状況で…」
ロイはじろりとホークアイをねめつける様に見上げた。
その瞳には確固とした意志が覗いていて、もう揺らぐことはないのだとそのことをホークアイに示唆してきた。
「理由はわかっているだろう?君なら」
だから、ホークアイは次の言葉を言う術をなくした。
ただでさえ、二人の衝突はこれから大きくなるだろう。 それなのに、これからも傍にいて働くということは多難としか言いようがない。 だとしたら、暫くの間エドワードと距離をとろうというわけだろう。 このところ、エドワードに対してロイは感情的だった彼にしては賢明な判断だと言っていいだろう。 その間に自分を立て直そうということだろう。しかし、エドワードの方はどうなのだろう。 彼はどちらかというと自分に向けられる感情に鈍感だ。だとしたら、今頃どんな気持ちでいるだろうか。 憤っているか、それとも訝っているか、それとも傷付いているか。 フォローをするべきだろうかとも考えたが、それは問題を先送りにするだけに他ならない。





「………というわけで、暫くエドワード君は一週間の休みだそうです」
気持ちがそぞろなまま、ロイを会議室まで見送った後、ホークアイは皆を集めてそう話を切り出した。 周囲の仲間は一様に憮然とした顔をしている。納得がいかないのがよくわかる。溜息を吐きそうになった。 いや、もう既に溜息は出ていた。
「准将、この前もエドワード君に向かって酷いこと言ってたし」
こうなるのは目に見えていた、というのがフュリーの意見だろう。それは他の者も同じだった。
「あ、でもさ、准将はそれなりに考えて」
ロイを擁護しようとするハボックにブレダは目を向けた。
「何を考えてだ?」
「それは…」
たちまち視線が揺らぐハボックにブレダは憤りを込めた視線を俯かせた。
「俺、エドがいなくなる前、会ったんだよ。エドの奴、泣きそうだったぜ。エドが。 准将が何考えているのかわからないが、今回はついてけねえよ」
その発言にホークアイは自分の予感が当たったことを知った。
「准将は、エルリック少佐のことでは、感情をコントロールできないことろがありますからね」
ファルマンはそう冷静に言うが、心の底では気分を害しているだろう。ホークアイとてそうだ。 あのエドワードが泣きそうな、とは余程打撃を受けたのだろう。ロイとて分かっていた筈だ。 エドワードをどう扱うかで、仲間の結束が緩んでしまうか。それでも、感情が理性に追いつかなかったのだろう。
「エドワード君やめたりしないですよね?」
エドワードの決意を知っている限りでは、それはないように思えるが、今後もロイとの間に諍いが絶えないのであれば、 可能性は決して低いとは言えないだろう。
「大体、准将は自分に会いに来るような、そんな女がいるんだろう。それなのに、何でそうエドに対してあれこれ口に出すんだ?」
ブレダは理性的な人間だ。その彼がここまで感情を剥き出しにするのは珍しい。 それは多分エドワードの姿がそれほどまでに印象的だったからだろう。 普段生意気で、それでも明るい元気な青年なのだ。そのギャップは激しかったのだろう。
「ブレダ中尉、それ以上は口にしないで」
未だ何か言いたそうな、ブレダを制する。これ以上言わせてしまえば、ロイに対する忠誠が揺らいでしまうだろう。 それをわかっているからか、ブレダがやるせないような表情をして黙り込んだ。それを機に、ホークアイは言葉を切り出した。
「この話はこれでおしまい。今後口に出すことを禁じます」
そう言ってとりあえず、その場を納めた。が、誰も納得していないのは明らかだった。 そんな面々に自分とて気持ちは同じなのだから文句は言えない。 多分、この咽喉に小骨が刺さったような状態は長く続くだろう。それもわかっていた。 とりあえず、今日のところは大した事件が起きていないからいい。しかし、テロは日常的と言っていい。 このような状況の中で、テロに見舞われた場合、果たして対処できるだろうか。
そんな頭痛に苛まれているホークアイを見て、ハボックは決心を固めていた。
一度アルフォンスに連絡しようと。
相談といったら不味いかもしれないが。 先日、確かにブレダはエドワードと一緒に暮らしている男は士官学校時代の友人といったところだろうとそう言った。 ハボックもそれに対してそうだろうとそう思えるようになった。 そうすると、ピースがうまく嵌まるのだ。だとしたら、アルフォンスに男のことを話しているかもしれないと。 だとしたら、何かわかるかもしれない。

一人で仕事を抜け出したその後、ロックベル家へと電話を掛けた。繋がったのはいいが、 出たのはウィンリイ・ロックベルだった。軽く久し振りと挨拶を交わした後に本題を切り出した。 「アルはいるか?」との問いにウィンリイは軽く「中央に出かけてますよ」と返ってきた。 何故なのかは聞かなかった。兄に会いに行くことは明白だったからだ。