時間帯を計算して来るのは夜間だと言うことはわかっていた。
ウィンリイに更に聞くと、アルフォンスはどうやら急いでいたと言う。
「アルの奴、何かあったんじゃないかって感じで気にしていたから。本当だったら私も行きたかったけど、仕事もあるし」
「ああ、そうなのか」
「エドの奴何かあったんですか?」
リゼンブールにいるウィンリイに、この中央での出来事を話そうとはとてもではないが思えなかった。
それに、話しやすいことではない。しかし、黙っていれば、彼女の心配は膨れ上がるだけだろう。
「いや、エドはよくやってるよ。うちの上官相手によくやってる」
「えー?エド、マスタング准将と一緒に仕事してるんですか?出世したんだ。
でも、ならいいです。アイツ突然軍人になるなんて言ったから、ちょっと大丈夫かなって思ってて。
連絡もくれないし。住所だって知らないですよ、酷いと思いません?」
「そうなんだ」
「何か聞きました?」
「いや、何となくそうじゃないかと思ってさ」
ロイに対してもそうだったことを思い出した。
定期報告に来るとき以外には何の連絡もないので、
エルリック兄弟が来たときは顔に出しているつもりはないだろうが、上機嫌だった。
「アイツの言うことっていつも突然なんだから」
嫌になっちゃうと呟くウィンリイは過去を思い出しているのだろう。
「でも、アルに何の用なんですか?本当に何もなかったんですか?」
そんな背景からか、ウィンリイの心配する気持ちはよくわかった。
だから、受話器を置くとき罪悪感があったことも確かだった。
アルフォンスが来るのをハボックは待とうとそう思っていた。
が、エドワードがいないことも相俟って、仕事の量が多くなっている。悪循環だ、と思わざるを得ない。
それに、アルフォンスはエドワードが何処に住んでいるのか知らない。
だとしたら、アルフォンスは必ず、司令部へとやって来るだろう。
そのとき、ロイがいたら、どんな遣り取りが繰り広げられるだろう。恐ろしい想像が頭を駆け抜けた。
会わせない方がいい、と決意を固め、ハボックは司令部の門番をしている軍人に
「アルフォンス・エルリックが訪ねてきたら、俺に報告してくれ」と言い置いた。
軍人は何故なのかわからないという顔をしたが、理由も聞かずに承諾した。
それなのに、どうしてだろうか。
「おい、テロが発生した!」
「マジかよ……」
思わず頭を抱えてしまう。出動をしなければならないのなら、その片付けもしなくてはならない。
そうすれば、時間も必要だ。その間にアルフォンスが来てしまう。
「ほら、早く行くぞ」
容赦ないブレダの言葉にハボックは「でもなあ」と動けない。
「ブレダ、今俺調子悪いから、お前一人で行ってくれねえ?」
そんなことはできないことは百も承知だ。が、足掻いてみる。ブレダはその足掻きを否とした。
「今、准将が会議中で出られないんだ。俺たちが行くしかないだろう」
正論を言われてハボックは言葉を失ってしまう。ロイが動けば、それだけで事が済むだろう。しかし、会議では動けない。
「でも、本当に俺調子悪くて」
「お前が本当に調子悪かったらそんなこと言わねえよ」
一蹴されて、ハボックは執務室から連れ出された。
ああ、どうか准将とアルが会いませんように、とハボックは祈った。
ロイが長い退屈な時間を会議室で過ごし、漸くそこから開放されたときには既に日は落ちていた。
それを見たとき、会議室で行われた不毛な会話が頭を過ぎり、なんとも言いがたい苦いものがこみ上げてくるのがわかった。
一言で言えばこれだ。
―――うんざりする。
その間に仕事が滞ってしまった。それも片付けないといけないのだ。
会議の間、遠くで爆音が響いた。だとすると、ホークアイたち部下はそこに赴いているだろう。
だとしたら、今はチャンスだ。そんなことを考えていると呼び止められた。
「マスタング准将、面会を求めている者がいるのですが」
「女か?」
「はあ?」
「女性かと言ったんだ。私に会いたい者が」
またあの女性が文句を言いに来たのかとそう思った。
一週間も休暇を与えれば、外にでも出て行かない限り、アパートにいることが多くなる。
だとしたら、女性との衝突が多くなっているのかもしれないと。
「いえ、それがアルフォンスという青年です」
知っているアルフォンスは一人しかいない。アルフォンス・エルリックだ。
「彼は今何処にいるんだ?」
「司令部から近いカフェにいます」
司令部にやって来る者が皆、軍の関係者と言うわけではない。中には危害を持って司令部にやって来る者もいる。
「暫くの間、私は司令部を離れる」
ロイはそうホークアイがいないこともあって、そう言い捨て、司令部から身を翻した。
何故アルフォンスがリゼンブールから司令部へとやって来たのかはわからない。それでも、会うのを拒む必要はなかった。
カフェで見たアルフォンスはやはりエドワードによく似ていた。
鎧姿があまりに印象的でそれを払拭するには接触が少なかった。
それでも面と向かって「久し振りだな」と声を掛けると柔和な笑みが広がるところに、
鎧姿であるときも感じた優しい気性を思い出さずにいられなかった。
カフェには時間帯が時間帯だからか、こぞってカフェに集まっているようだった。
中には学校帰りの学生もいれば、仕事帰りの会社員もいた。
何となくではあるが、その中にアルフォンスも混じっているのだと感じると不思議な気がした。
「久し振りです。マスタング准将」
「ああ、本当にそうだな。たまには司令部に顔を見せに来なさい。喜ぶから」
「そうですか」
笑顔だった顔が少しだけ曇る。
長丁場になることを見越して、ロイは向かい合う形で椅子に腰を下ろした。
「あの准将…」
「何だね?」
「兄さんのことなんですけど、何かありました?」
どきりとした。
それは今までのエドワードとの遣り取りを彷彿とさせた。
「昨日兄さんから電話があって。電話って言っても無言だったんですけど、でも多分兄さんからじゃないかと思って」
「落ち着きなさい、アルフォンス」
混乱しているアルフォンスにそう話し掛けると、彼はテーブルに目を落とした。
何か見落としているものがあるのではないかというように。
しかし、彼のテーブルにあるのは、アイスコーヒーだけだった。一口も飲んでいないことが知れた。
「何か話したいことがあったんじゃないかとそう思って。
もしかしたら、ボクの勘違いなのかもしれないけど、気になっちゃって。
そしたら、ウィンリイが会いに行けばいいじゃなってそう言って。
思い切って来ちゃったんですけど、ボク兄さんの住所も知らないし、だから司令部に行って」
二人きりの兄弟なのだ。心配して当然だ。そのうえ、エドワードのことだ。
まともに連絡していないのだろう。だから、無言の電話がかかってきたときにエドワードではないかとそう思ったのだろう。
「昨日のいつかね、電話がかかってきたのは」
「11時くらいでした」
ロイの問いに不思議そうな顔をしながらも、そうアルフォンスは答えた。
その時間はエドワードが司令部にいなかった時間だ。
というよりも、ロイの傍にいなかった時間といった方が正しいだろう。
電話を掛けたのはエドワードに違いない。弟に電話を掛けさせるほど傷つけたのだろう。
実感が不意に訪れた。以前だったら、悦んでいただろうに、今は苦いものでしかないのは何故なのだろう。
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