エドワードは図書館で時間を潰していた。が、文面は頭の中には入ってこない。
思い出すのはロイの冷たい視線と声と、無表情な顔だ。
暫く休みなさいという言葉が頭から消えない。迷惑をかけたから、ロイは愛想を尽かしたのだろう。
ロイとの思い出が脳裏に駆け巡る。まるで走馬灯のようだ。自分にかけてくれた言葉、態度。
―――――――何でこんなことになったのだろう。
「閉館の時間ですよ」
司書に声をかけられ、エドワードは漸く図書館から人が消えているのに気付いた。
顔を上げたエドワードに司書は「何か本を借りていきますか?」とそう言ったが、エドワードは「あ、いいです」と断った。
暇つぶしに本を借りようなどとは思わなかった。
他に行くところがあるわけではない。
エドワードはアルフォンスに手紙の返事を書かなければ、と思いながらも気が進まない自分がいることに気付いた。
アルフォンスに手紙を書かなければならないのに。
エドワードはそんな自分に嫌気が差しながらも、アパートへと帰った。
そして、合鍵でドアを開け、そこで床に紙切れが落ちているのに気付いた。
「准将?」
メモにはアルフォンスが私の家にいるから、電話をしなさい、と書いてあった。
見覚えのあるロイの文章にエドワードは当惑を隠せなかった。
「何でアルが中央に?」
しかも、ロイのところにいるという。
「何で?」
ロイはエドワードに対して愛想を尽かしたのではないだろうか。
それとも、アルフォンスだからだろうか。想像は無限に膨らみ、エドワードの動きは、それで止まった。
テロの事後処理も無事に終わり、部下たちが帰ってきても、ロイは執務室から出られなかった。
それほどまでに仕事が溜まっていたのである。
その負担を和らげていたのがエドワードであったことを思い出すと、最近馴染みになった苦味が口の中に広がる。
「未だ終わってなかったんですか、准将」
ブレダが棘のある言葉を吐いた。それがエドワードの不在をロイに詰っているのだとそう思うのは、気のせいだろうか。
「生憎と会議が長引いてな」
それでも、ロイは何も言い返したりしなかった。そんなロイにブレダは何か感じたのか、それ以上何も言おうとしなかった。
代わりにハボックが口を開いた。
「准将、あの、アルが准将に会いに来たって聞いたんですけど」
何か焦っている様子のハボックにロイは淡々と答えた。
「ああ、丁度お前たちがテロを片付けに行ったときだったな。エドワードに会いに来たらしい。また明日でも挨拶に来るそうだ」
「マジっすか」
「何だ、ハボック。何か不味いことでもあるのか?」
顔を心なしか青くさせているハボックをロイは見返した。
「いいえ、何もありません」
何かあると言っているような態度ではあるが、ロイは追求したりはしなかった。
「よし、これで終わりだ。私は帰る」
全ての書類にサインを施した。今日の分の仕事はこれで終わりだ。
テロの事後処理は部下がやってくれたのだから、ロイが何かする必要はない。確認作業は明日でもよい筈だ。
文句はないだろう、とホークアイを見遣ると心なしか彼女は不服そうだった。
「でも、今日は早いですね、仕事が終わるのが」
それでも、一言言わずにいられないらしい。
「家で待っている者がいるのでね、気が急いた」
新たな女ですか、とハボックがそう言ったのがちらりと横目で見て、ロイは帰路についた。
誤解されようがどうなろうが、大したことではないように思えてならなかった。
道中、アルフォンスは家にいるだろうか、と気になったが、家にいた。
どうやら、食事を作っていたようで、いい匂いが家に入ると漂ってきた。
「アルフォンス?」
そう呼びかけると、リビングから声が返ってきた。
「お帰りなさい、准将」
そして、出迎えたアルフォンスにぎこちない笑顔で「ただいま」と返した。
アルフォンスに電話がかかってきたかと聞くと、未だとのことだった。エドワードから電話がなかったのだろうか。
エドワードのことだ。アルフォンスが来たのなら、喜ぶだろうとそう疑いもしなかった。
「電話をかけようかなと思ったんですけど、とりあえず、待っていることにしたら、こんな時間になっちゃって。
そのついでに夕食を作っていたんです。准将がお腹空いているんじゃないかとそう思って」
リビングの中に入ると、食卓には様々な色とりどりの料理が並べられている。
作るのにさぞ時間がかかっただろうとそう思うのは、料理をすることがあまりないからなのか。
「もしかしたら食べてくるかもしれないとそう思ったんですけど、買い物終わって暇だったし」
要らないお節介だったのかと心配するアルフォンスにロイは軽く笑ってみせた。
「いいや。嬉しいよ」
「そうですか」
照れくさそうに笑うアルフォンスだが、それでも悲しい瞳をしているのに気付いていた。
食卓にはシチューがある。エドワードの大好物だ。食べさせたいと思って作ったのだろう。
「エドワードを呼ぼうか?」
そう思わず提案していた。
「えっ。でも兄さんいるかな?」
電話もかかってこないし、とそうアルフォンスが言う。
「留守だったら留守でもそれでいいんです。兄さんが元気でやっているんだったら」
「流石にこの時間だ。アパートにいるだろう。済まなかったね。エドワードのアパートの電話番号を教えなかったから」
そうして、ロイは立ち上がり、電話の前に立った。
そして、ゆっくりと覚えてしまった番号を順番に押した。
もしかしたら、男が出るかもしれないとそう思ったが、出たのはエドワードだった。
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