「もしもし?」
随分懐かしい声だとそう思ったのは、何故なのだろう。
「私だ、ロイ・マスタングだ」
「准将!」
硬くなる声に嫌われているのだろうとそう実感する。
気分が重くなるのを感じた。
「何だね、私からの電話は嫌か?誰からの電話だったらよかったんだ?」
どうして、私はエドワードを困らせることしかできないのだろう。
「そんなことないです」
否定の言葉が弱い。
「そんなに私から電話がかかってくるのが嫌だったら、君から電話をくれればよかったんだ。
今、君の弟が私の家にいる。メモを見なかったか?」
言葉が返ってこない。肯定なのか、否定なのかわからない。
「とりあえず、私の家に来なさい。アルフォンスが君にシチューを作ってくれた。
今から住所を言う。まあ、用事があるんだったら別だがな」
「今から行きます」
そう言い置いて、がちゃんと受話器が置かれた。住所を言って直ぐのその行動に思わず笑ってしまう。
やはり、弟は彼にとって大事な存在らしい。振り向くと、アルフォンスがこちらに期待のまなざしで目を向けていた。
「エドワードは今から来るそうだ」
ぱあと向日葵のようにアルフォンスの顔が明るくなっていく。本当に仲のよい兄弟だ。
エドワードはそれからほどなくして現れた。
「アル!」
「兄さん!」
そうして、互いに喜びを胸に再会した二人に、自分は邪魔なのだとそう悟る。
暫く二人きりにしていてもいいが、それでは料理が冷めてしまう。いや、エドワードが来るまでに料理は冷めてしまっていた。
「感動の再会を邪魔して悪いが、食事にしないか?」
そう提案すると、すっかり二人で近況を話していた二人は我に帰ったようだ。
妙なことになったものだ、と思わずにいられない。3人で食卓を囲むことなどこれまでなかったことだ。
いや、これまでもないとそう思っていた。それなのに、こうして食卓を囲っているこの現状に不思議としか言い表せないのが残念だ。
「どうしてアルがここに?」
エドワードがちらりと答えを求めてロイを見上げてくる。先ほどまでアルフォンスと対応していたときと表情が違い、硬い。
「市内のホテルに泊まるといったからな、連れてきたんだ。余計な金は使わない方がいい」
もしかしたら、エドワードはその親切を疑っているのかもしれない。
確かに、これまでのエドワードに対する態度と一線を画している。
「もしかしたらさ、准将の家には入れるなんて今後ないかもしれないから、甘えちゃいました」
「今後なんて寂しいことを言うな。中央に着たら、私の家に遊びに来なさい」
「いいんですか?」
「勿論だ」
嬉しそうなアルフォンスの言葉に笑顔で応じる。しかし、それとは反対にエドワードは複雑な顔をして黙り込んだ。
「エドワード」
「え、何?」
言葉を掛けられて、はっとして顔を上げる仕草に今までの話を聞いていないのだと知れた。
「兄さん、何を考えてたの?」
呆れ返るアルフォンスに「たいしたことじゃねえよ」とそう返す。
「ふーん」
「本当だって。そんな目するなよ、アル」
「じゃあ、いいけど。でも、話変わりますけど、そんなに親切にしてもらってありがとうございます」
一度言っておかなければとそう思っていたらしい。それを聞いて、目が覚める思いだった。
こうして、純粋に慕ってくれる者がいるのだ。自分にも。
大丈夫だ。きっと、エドワードに対する思いは捨てられる。そうしなければならない。
初めから、持つのが不似合いなもおだったのだ。エドワードを困らせるだけでしかない。
以前のような関係に戻れるだろう。自分さえ努力すれば。悲しいとそう思う。それでもきっと。きっと。戻れる筈だ。
「私は君たちのことを自分の子供のように思っているから」
そうだ、一回り近くも歳が離れている。
「准将…」
アルフォンスが続けて重ねるように言葉を続けた。
「不本意ながらボクたちの父は生きていますが」
「例えの話だよ」
冷静な一言にロイはそう言葉を添える。
「嬉しいですけど、でも、准将は結婚しないつもりなんですか?」
何度も言われた言葉だ。結婚しろと。
「結婚は考えたことないよ。今は忙しくて」
忙しいというのが原因などではない。しかし、常に結婚という二文字を出されると都合よく使ってしまう。
「でも、付き合っている女性はいるんでしょう?」
「それはいるが」
最近、まともに会うこともなくなっていた。それでも、恋人と言えるのかはわからない。
「その人とは結婚しないんですか?」
結婚をせっつかれるとは程ではない。別れるのは時間の問題だろう。カウントダウンは迫ってきている。それでも――。
「結婚するのもいいかもしれないな」
そう、ロイは呟いた。エドワードと結婚できる可能性は低い。それ以前に付き合えもしないだろう。
思いを告白することも。あまりに不毛過ぎる。
そんなことを自分に言い聞かせるように、もう一度ロイは心の中で呟いた。いいかもしれない、と。
ロイの真向かいの席でエドワードは固まっていた。
確かに結婚するのもいいかもしれない、とロイは言った。
結婚する女性がいるということだ。
ロイの今までの自分に対する態度はエドワードを自分の子供のように思っているからだとも聞いた。
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