そうだったのか、と納得する思いでもあった。どこか特別なのだとそう思っていた。
しかし、それは子供のように思っていたからだったのか。ヒューズに言われてうぬぼれていたのかもしれない。
特別だと。そう、確かに特別なのだ。しかし、それは――。
「今日はエドワードも泊まっていきなさい。せっかく兄弟揃ったんだから、積もる話もあるだろう?」
「でも、准将の寝るところあるのかよ」
「生憎と、部屋は余っているからな」
軽く、ロイはそう言った。確かにロイの家は広く、部屋が何室もある。
今すぐにでも女性はこの家へ越して来れるだろう。どうしてもそこに思考が結びついてしまう。
この前も、ロイは女性と一緒にいた。忘れていたことを思い出し、エドワードは思わず顔を顰めた。
「それとも、アパートに戻らなければならない用事があるか?」
それは特になかった。確か、今日同居人は戻らないとそう言っていた。
それでも、この場にいたくない。この場にいれる表情が保てない。
せっかくの食事だから楽しそうな顔をしないと、とそう来たときから思っているが、どうしてもできない。
「別にないけど」
「せっかく准将がそう言ってくれるんだから泊まっていこうよ。准将だったら、いっぱい錬金術書持っているだろうし」
アルフォンスの言葉にエドワードは期待を込めてロイを見遣る。
「持っているが」
「マジで?アンタん家来るなんて最悪だって思っていたけど、いいこともあるもんだなあ。貸して!」
「いいが」
「兄さん、それすごく失礼だよ」
アルフォンスに指摘されて、エドワードはしまったという顔をする。本のことを言われて、舞い上がっていた。
「君は失礼だな。いつも」
まあ、そこが君らしいと妙な納得をして、ロイは椅子から立ち上がった。
「取りに行ってこよう。貸すのは3冊だけだ。未だ貸して欲しかったら、私の家に来なさい」
「3冊だけかよ。けちだな」
「どうせ徹夜で読むんだろう?体を壊すぞ」
「壊さねえよ」
いつものやり取りだと、数瞬遅れて気付いた。それに、とエドワードは嬉しかった。家に来てもいいと許可が手に入った。
「壊してもらっては困る。まだまだ働いてもらうからな。私の為に」
「アンタの為じゃないっつーの」
そう唇を尖らしたものの、内心は嬉しかった。ロイは未だエドワードを自分の傍に置くとそう今、言ったのだ。
勝手な奴、とそう思わなくもない。それでも、嫌われたとそう思っていた。だからこそ、必要だと思われているようで嬉しい。
ロイがダイニングから消えた後で、アルフォンスがエドワードに囁いた。
「何?もしかして、兄さん准将の下で働いているの?」
「ん、まあ、一応そうだけど」
「早く言ってよ。兄さん。だったら、お菓子の一つくらい買ってきたのに」
「ば!そんな恥ずかしいことするな!」
「だって兄さん、自分からは言わないでしょ?」
断定する口調によくわかっているなあ、流石兄弟だと思わずにいられない。
結局、寝室にエドワードとアルフォンスはロイのベッドに横になった。
ロイのベッドは無駄に広く、Wベッドだった。なので、二人で横になっても狭いとは思わなかった。
ここでロイは寝ているのかとそう思うと、何だか横になっているのが気恥ずかしかった。
赤くなっているかもしれない顔を隠すために、エドワードはベッドに深く頭を沈めた。
「なんかさ、准将のベッドって無駄にでかいよな」
「そうだよね、贅沢な感じ」
「一応、准将だもんな、アイツ。上に行くとは思ってたけど、早かったなあ」
三十二歳の若さでは異例だと聞いた。
「でも、ボク、大佐だったら上に行くって思ってたよ」
「まあな」
軽く笑ってエドワードは暫し黙り込む。枕元にはロイが貸してくれた書物が3冊置かれている。それを無意味にぱらぱらと捲った。
「ねえ、兄さん」
「うん、何だ?」
「何か悩んでいることがあれば、ボクに言ってよ」
「そんなんねえよ。あるとしたらあれだな。准将の奴が仕事をなかなかしてくれないから困るな。
それで仕事が終らなかったりするからすごい迷惑」
笑い話を出せば、何も悩みはないだろうと思うと思ったが、アルフォンスは困った笑みを浮かべたままだった。
きっと見透かされているのだろう。兄弟というのはこういうときに困る。
ごまかしていると。エドワードは顔を上げ、視線を真っ白なシーツへと向けた。
皺一つついていないシーツにあまり、ロイが自宅へと帰っていないことを思わせた。
「実はちょっと悩んでいることがある」
「そっか」
でも、とエドワードはアルフォンスに笑顔を見せる。
「そんなたいしたことじゃねえし、直ぐに解決することだし。あんま大袈裟に騒ぐことじゃねえよ」
「なら、いいんだ」
「それよりもさ、お前の方はどうなんだよ。大学の方。お前こそ悩みとかあるんじゃねえの?」
「そりゃあ、あるよ」
「だったら、お兄ちゃんに相談してみろ。今ならただで相談受けつけてやるから」
「えー?普段は金取るの?」
久しぶりに息を吐けたような心地だった。アルフォンスに会ったのは正解だった。
とても楽しい。それでも、明日になったらアルフォンスはリゼンブールへと帰るのだろう。
心細さが湧きあがってくるのをエドワードは感じずにはいられなかった。
その日はずっとアルフォンスと話をしていていつ眠ったのかは覚えていない。
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