翌朝は何故かエルリック兄弟が朝食を作っていて、 寝ぼけ眼でその光景を見たロイは一緒に暮らしているみたいだなあとそんなことを思った。
「おはようございます、准将」
「おはよう、アルフォンス」
アルフォンスには挨拶されたが、エドワードからの挨拶はない。無視をして、ひとしきり料理に励んでいる。
「何だ、エドワード。おはようの挨拶はしてくれないのか?」
そんなことどうでもいいような気がしたが、放って置く事もできなかった。
「エドワード」
アルフォンスが呆れた顔をしている。それがロイに対してかエドワードに対してなのかはわからない。
「ああ?おはようございます、准将」
ちらりとエドワードはこちらを見て、そうそっけなく口にした。何か違うと思いながら、食卓の席についた。 そういえば、エドワードの料理を食べるのは初めてなのだということに気付いた。 機会はあったものの、それを途中で逃げ出してきた。 恐らく、エドワードはあの男に何度も料理を作ってきたのだろうな、とそう思うと、またあの破壊衝動が襲いかかってきた。 違うだろう。私はこの子たちの父親のような役割をするんだろう。こんな感情間違っている。 それでも、父親になったことはないので、どうしたらいいのかわからない。
一度ヒューズに相談するか、とロイは身近な父親を捜しあてた。
「アルフォンスはともかく、エドワードの料理はどうなんだ?」
それでも、食卓を囲み、一緒に食事をするという状況がロイには嬉しくてならない。なので、どうしても口が軽くなる。 嫌われていると思っていただけに、手料理を食べるという行幸に見舞われたことが要因の一つだ。
「別に無理して食べることないから。アルがせっかくだから朝食を作ろうって言って、だから!」
どうやらエドワードは恥ずかしかったらしい。なので、料理をしているとき、エドワードは返事をしなかったのだろう。
「君が作ったものを、どうして私が食べないなんてことをするんだ。全部食べるとも」
正直な気持ちだった。しかし、父親が息子にそう言われたときに、こう答えるだろうか。 何か違う気がする、と思いながらも誰も口にしないので、よかったのだとそう思うことにした。 但し、二人の目が少しだけ冷たい気がしたのは何故だろう。
「兄さん、結構料理上手でしょう?」
エドワードにアルフォンスが助け舟を出す。
「結構とは何だ。味だけじゃないぞ。准将のことを考えてな、ヘルシーに作って…」
「私は未だ三十ニ歳だ」
何気にエドワードは失礼だ。歳のことを言って欲しくない。エドワードとの距離が遠くなる。
「でも、兄さん料理の腕が上がったね。アパートでいつも作ってるの?」
「まあ、大抵な。外食ばかりしていたら栄養偏るし。金かかるし」
「それは私への嫌味かな、エドワード」
「それに、オレ一人暮しをしようと思っているから、金使わないようにしてるから」
「アパートを出るのか?」
初耳だ、とそう顔を上げるとどこか困った顔をしているエドワードの瞳と目が合った。
「うん、そのつもり。一緒に暮らしているとやっぱりどこかで甘えが出ちゃうし。 准将には長期休暇取らされたから、アパート探しているところ。でも、あんまりないんだよな。 近くで安くてっていうの。あんまり安いところだと防音設備整ってなくて足音とか音楽かけてるとうるさいし」
「兄さん、ボク寮で暮らしているものだとずっと思ってたよ」
アルフォンスの言葉にエドワードは「あんまり好きじゃないんだよ、寮は」と答えた。
「え、でもさ、兄さんの言い方だと誰かと一緒って感じがするんだけど、女の人と一緒に暮らしてるの?」
「違う。男とだよ。オレより二つ年上の」
「そんなこと全然知らなかったよ。じゃあ、ボクその人に挨拶しないと!」
「しなくていい。あんな奴に…」
「あんな奴ってそんな一緒に暮らしているのに、そんな言い方しなくても…」
「あんな奴で充分だよ。アイツ、仕事してないし、 女に食わせてもらっているのにいつもふらふら遊びまわっているような奴だし。 それに、最近女に愛想つかれたみたいで、今ご機嫌取りにその女のとこに行っているような奴だし」
「それでいいのかなあ、その人。将来何になるつもりなんだろ」
「さあ。何もなるつもりないんじゃねえの?今が楽しければそれでいいって感じ」
「それでいいのかなあ」
「だから会わなくて正解だって。会ったら不愉快になるだけだから」
その言葉を聞いて、それ以上アルフォンスは何も言わなかった。代わりにロイが口を開いた。 エドワードの言い方を聞いていると、その男には恋人がいると言うことになる。 それはロイも知っていた。が、そのことに対してエドワードは特に何の感情も抱いていないようだった。 いや、青年らしい潔癖さで厭っているに過ぎない。アルフォンスがいるからそういう言い方をしたのだろうか。 まるで、エドワードはその男を嫌っているようだった。男のことが好きなのだとそう思っていた。 が、今はどうにも逆にしか思えない。女はエドワードと男との性的関係を仄めかしていたが。 それが勘違いなのだとしたら? それに、大体どうしてロイはエドワードが男と付き合っているのだとそう思い始めたのか。 そのことを思い出し、最初にそんなことを言い出したのはハボックだということに気付いた。 そう、エドワードは一言だって男と付き合っているのだと口にしていない。
「君はその男とどこで知り合ったんだ?」
そもそも一緒に暮らしている男に唐突に教われることがあっても、未だ一緒に暮らしているエドワードの気持ちがわからない。 逃げ出してきたのに、何故戻るんだ。その理由は?
「どこで知り合ったって言われても…」
何故そんなことを言われなければならないのか、エドワードにはわからないようだった。
「君の言い方からすると、とてもではないがその男に好意を持っているとは思えなくてな」
聞くのは今しかない。機会を逃せば、そのままとなってしまう。
「何?アイツ何か疑われているようなことしてるの?」
「質問に答えなさい、エドワード。どこでその男と知り合ったんだ?」
ロイの畳み掛けるような言葉にエドワードはどうしてそんな言い方をされなければならないのかと思ったらしい。 唇を尖らせた。そんなエドワードが憎たらしくてし方がない。
「どうしてそんなことアンタに言わなければならないんだよ。アンタはオレの母親でも何でもないじゃん」
「ああ。そうだな。君からすれば私はただの口うるさいいけすかないおっさんだろう。自覚はあるよ。 それでも、私にとって君は、いや、君たちは――」
自分よりも大切な存在だ。
「自分の子供のように思っているよ」
「…オレはアンタみたいな父親なんか要らない」
エドワードに切って捨てられ、ロイは黙り込んだ。
アルフォンスが「兄さん!」とエドワードを非難するのが遠くで聞こえた。

だとしたら、私は君の何になればいいんだ。
そんな疑問が湧いた。
いい上官にもなれない。恋人にもなれない。友人にもなれない。家族にもなれない。これではただの他人だ。