飲み会の誘いはエドワードにとって、嬉しいものだった。 三年経った今でも、繋がりが消えていないのだとそう知れた。気楽な間柄だった。 そんな彼らと一緒に飲みに行けるのだ、楽しみじゃないわけがなかった。 しかし、気にかかるのは同居人の存在だった。一人にするのが心配というわけではない。 帰って来ない日もよくあることだ。それでも、遠慮してしまう。
「都合が悪いんだったら、別の日でもいいんだぜ。ただ、今度の週末だとみんな都合がいいってことだからさ。 大将はどうだろうと思って聞きに来ただけだし」
答えに躊躇しているエドワードにハボックが助け舟を出す。
「いや、別に都合悪いわけじゃないし。朝からずっとってわけじゃないんだろ?買出しは午前中で済ませるよ」
せっかくだから、とからから笑うエドワードにハボックとブレダが顔を見合わせ、笑みを浮かべた。
「よし、じゃあ決まりだな。店は後で教えるから」
仕事はほどほどにしとけよ、と言い置いて二人が室内から出て行ったのを見送ってから、エドワードは再び仕事に取り掛かった。





「准将――。エドの許可取れました!」
「何故真っ先に私に報告するんだ」
意図的な作為を感じてしまわざるを得ない。 そう睨みつけると、まあまあと当の本人が懐柔策とばかりに手を前に出し、宥めに使う。
「准将、気にしていたじゃないですか。だから、教えようと思って」
「お前はどうやら本当にエドワードと私に何か期待しているようだな。ん?いっそ一度私の手で焼かれてみるか? そうすれば少しは頭が正常になるかも知れんぞ」
発火布を取り出すと、ハボックは降参のポーズを取った。
「遠慮しときます」
ハボックと一緒に執務室に戻ってきたブレダは机の片付けにと戻っている。 他の者たちは皆、帰宅しておりであり、ハボックを助ける者は執務室にはいなかった。
ロイはそんな中で、未だ帰ることも出来ず、溜まった仕事を片付けていたのである。
「今なら、ウェルダンがミディアムに選ばせてやるぞ」
「どっちも焼くんじゃないですか!」
ロイがハボックで遊んでいるところに、ホークアイが執務室へと入ってきた。 この場を収めるものとしてハボックが救いの目で彼女を見、ロイは強張った笑みを瞬時に作った。
「大尉、准将が苛めてきます!」
ここぞとばかりに告げ口をするハボックにロイはまずいことを、とぎろりと睨み付ける。
が、もう遅かった。
「書類が全然減っていませんが」
にこりと笑っているが、何故か寒いと感じてしまう。隣ではもっと言って下さいよと表情を隠さずにハボックが頷いている。 お前の上官は誰だ、とそう思うが微笑むホークアイから逃れることは出来ない。 しかし、そこから銃声は響くことはなく、大きな溜息が彼女の口から零れ、ロイは助かったのだとそう知った。
「私が少し離れていただけでこの有様」
もし、私がいなくなったらどうするのだろうかと彼女の中で不安が芽生えたらしい。 しかし、突然何かに閃いたように、ぱちりと目を見開いた。 ロイは無意識に一歩後退した。
「エドワード君を准将の部下にすればいいんだわ」
その話は既に却下したものだ。が、彼女の中では決定事項になっているらしい。
「あ、それ!」
ハボックも賛成を示す。
「いいですね、引き抜いちゃいましょうよ!」
続けて、「エドの奴だったら、優秀だし、やり易いし、いいじゃないですか」
と言うハボックの言葉を転換するならば、それなら仕事が楽になるじゃないですか、ということだろう。 その点をホークアイも考えているに違いなかった。
「私抜きに話をするんじゃない!却下だ、それは」
そう宣言するロイに「えー」とハボックが不平を言う。
「えーじゃない。常識で考えろ。未だエドワードは士官学校を出たばかりじゃないか。使い物になるかわかったもんじゃない」
「今日も頑張って残って書類片付けてましたよ。他の奴から聞いたら、優秀だってべた褒めだったし」
「そういう意味じゃない!」
苛立たしげにロイは髪をかき上げ、これで話は終わりだととした。 今まで見向きもしなかった書類に取り掛かる。ペンを握り、書類にサインを施す。だから、 死角にいるホークアイの姿に気がつかなかった。 彼女は先ほどと同じように思案していた。 そして、その後仕事に没頭しようとしているロイの姿を暫し、観察した。




執務室を通りかかったエドワードは最後の会話の辺りを忠実に頭に再現していた。 仕事が終わったので、帰りの挨拶をしようと執務室まで赴いたのだ。 わざわざ言うことではない気もしたが、ハボックとブレダがわざわざ寄ってくれたのだ。 だから、エドワードもそうしようと思ったのだ。

何だ?要するにオレは准将の部下にしようって話が出ているのか?それで、准将はそれを 嫌がっているんだよな、要するに

要約してみると、それだけのことだ。それにしても、何故か苛立つ。

オレが役立たずだとそう思っているのか?子供だと思って

昔から、ロイはエドワードのことを子ども扱いしていた、さり気なく、本当に少しばかり。
昔から、ロイに子ども扱いされると酷く気に障った。等価交換を持ち出すのは、ロイとて、同じだったのに。
しかし、今は正式に軍人なのだ。
それなのに――。
唇をぎりっと噛んだ。
その後、エドワードは音を立てないように慎重に踵を返し、歩き出した。