たまにはどうだ、と誘われたのその理由を漠然とわかっている自分に驚かされる。 ヒューズから家に来ないかとそう誘われた。珍しい申し出だった。 このところ多忙を極めているロイは断ることも出来たが、誘われた理由を漠然とわかっているからこそ、申し出を受けた。 エドワードがいない分、仕事は溜まっており、そんな自分が休暇をもらえるのかというと微妙なところだったら、 あっさりとホークアイはそれを許した。 どうしてなのかは聞かなかった。恐らく、ホークアイにも思うところがあるのだろうと。

「久し振りだな、お前がうちに来るのは」
実際、ヒューズの自宅へと足を踏み入れるのは久し振りだった。恐らく、何ヶ月振りとなる。 ロイとしては多忙だからなのと、遠慮があったからだ。 家に帰ってからも、仕事の話をしているようでは、グレイシアもヒューズも悲しむだろうと。 ヒューズは電話越しではプレイベートの話ばかりしたが、直接顔を合わせたときには、引っ込めることが多かった。 あれでも、気を遣っているのだとそうロイは思っていた。

「ロイおじさん、こんにちは」
思わず、笑ってしまう。もうおじさんと言われる歳になってしまったのかと。 しかし、久し振りに見るエリシアは随分大きくなったように思う。贔屓目ではないだろう。その証拠に、以前よりも目線が近い。
「こんにちは、エリシア。久し振りだが、元気にしてたかね?」
「うん。今日ロイおじさんはいつまでいられるの?」
今日ママと一緒にケーキを焼いたから、食べてくれると可愛らしく顔を上げて言う。頬が自然と緩むのを感じた。 単純な好意が今はとても心地よいものに感じていた。
「勿論だよ」
顔が途端に朱に染まるのを見届ける前に、エリシアがキッチンへと引っ込んだ。
「おい、お前、エリシアに手を出したらぶっ殺すぞ」
物騒な物言いをするヒューズにロイは笑って答えた。
「何だ、私がエリシアの旦那では不足か?」
「当ったり前だ!お前なんかと一緒になってみろ、苦労するに決まってるだろ!」
冗談で言ったにも関わらず、ヒューズは憤っている。拳を握り締めているところを見ると、娘離れするには時間がかかることだろう。
「それよりも、話があるんだろう?」
用件がわかっているにも関わらず、聞いてしまう自分を愚かだと思う。 ヒューズの性格からして黙っていられないのは承知していたからだ。
「………考え直せ。今なら引き返せる」
「無理だ」
何に対してなのかは見当がついている。多分、誰よりもロイのことをわかっているのはヒューズだ。 多分、ヒューズはエドワードに対しても何か言ったのだろうことは推察可能だ。
「あの子が欲しいんだ」
ただ、本当にそれだけで。
「物じゃないんだぞ」
「知ってる」
多分、ヒューズはロイに家庭というものを見せたかったのだろう。こうあるべき姿を。 笑い合う家族。
そこには幸せが溢れている。

ヒューズが何度も家族を持て、というのは自分自身がそれをよくわかっているのだ。 イシュバール内戦でもう帰れないかも知れないとそう思いながらも、手にした幸せだ。だからこそ、ヒューズはとても大切にしている。 心の中では、この幸せが続く筈がない、とそう思いながら。
私には無理なんだ。
息が詰まる。家庭を持つと考えただけで。雁字搦めに身体の自由を奪われるような。
「こんな奴に目をつけられて、エドも可哀想に」
「ははは、本当に――」
可哀想に。
そんな自嘲をヒューズは聞いていないふりをした。
「ロイおじちゃん!」
ぱたぱたと声がして、エリシアがキッチンから姿を現した。その手には大きなケーキを抱えている。 きちんとデコレーションされて登場したケーキに流石にロイも驚きを隠せない。
「今日は何かのお祝いだったかな?」
「エリシアちゃん、上手に作ったな!」
声がヒューズと重なる。
「だって、ロイおじちゃん久し振りに来るって聞いたから」
恥ずかしそうに目を俯かせているエリシアに自然と笑顔が浮かぶ。
「………また遊びに来るから、またケーキを焼いてくれる?」
「うん」
そんなエリシアとの遣り取りにもう二度とお前は来るな、と言われたのは当然のことだったのかもしれない。