食材の買出しにホークアイは市場へと出掛けていた。
買わなくてはならないものは多岐に渡っており、当然買い出しに時間はかかる。
買出しが終わった後は、射撃訓練に向かう予定だった。
いつでも、その腕を磨いておかなければならないとそれは自分に決めたことだった。
だから、買出しが終わった後、射撃場へと足を向かおうとしたときに、
途中にその人物に気付いたのは、ただの確立の問題だったのだ。
「准将?」
ロイは知らない女性と一緒だった。その姿は以前はよく街中で見かけた光景であった。
しかし、ここ最近では滅多に見ることが少なくなっていたものだった。
口の中でロイの階級を漏らした後、ホークアイは信じられないと目を瞠った。
少なくとも、女性は情報提供者には見えなかった。
恋人に装うこともあるが、しかし、そのときにはホークアイは確かにその女性は違う、と一言で言えた。
ホークアイの中で芽生えたのは憤りだった。
エドワードに対し、ロイが抱いているのは好意以外の何でもなかった。
そして、彼自身それに持て余している。
どうすればいいのかわからないと。
その言葉を聞いたとき、ホークアイは頭が痛い思いだった。
他の女性では上手くやれていることを、エドワード相手では全くと言っていいほど出来ないことに。
しかし、その理由にも見当がついていたホークアイとしては、仕方がないというそんな思いもあった。
だからこそ、助言をした。気持ちを伝えなさい、と。それなのに、ロイがした行動は、それではなかったのだ。
この時点でホークアイはロイを見放した方向でいた。もう関知するのはやめようと。
しかし、ここで女性と一緒にいるロイを見た途端、どんな理由があれ、憤りが抑えられなかった。
一体ロイが何をしたいのかがわからない。以前のようにエドワードにでも見られて誤解されたらどうするつもりなのだろう。
ホークアイはその女性をもう一度とその姿を確認した。
ロイが連れ歩く女性としては珍しいとそう言えた。
小さな頭蓋、それを覆う粗雑な色加減の髪、化粧によって一際大きくなった瞳、小柄な身体。
それに何よりもホークアイが注目したのは、彼女の服装だった。
まるで、娼婦のようにスタイルが直ぐに知れる胸が大きく開いたシャツに、
すんなりとして伸びた足がミニスカートの下から現れている。
シャツから伸びた細い腕がロイの腕に絡んだ。
それを見た途端、二人の親密さが伺えた。
ホークアイはそのまま通り過ぎ、射撃場へと向かおうとして、ふと、足を止めた。
女性の姿、容姿は以前、ブレダが言っていた女性を思い出させるものがあったのだ。
「わざわざ准将に会いに」
そうブレダが刺のある口調で言った。相当頭にきていたのだろうとそう知れた。
そのとき、ブレダはわざわざ伝えに来た軍人を捕まえてその女の特徴は何だ、と尋ねたのだ。
その特徴に彼女は当て嵌まっていた。ロイに会いに司令部まで訪ねてきた女性だ。
あのときは、どこか遠くからその女性はやって来たのかとそう思ったのだが――。
こうしてそう間を置かず、会っているところを見ると、案外近くに彼女は住んでいるのかもしれない。
「あの女性…」
そう、ぽつりと呟く一人の女性の声がホークアイの耳に入った。
そう遠く離れていないところに、一人の女性が足を止めて、ロイに視線を合わせている。
「前も一緒にマスタング准将と歩いていた人」
それは淡々とした、事実を伝えるだけの言葉に過ぎなかった。それだけに、確信しているものがあった。
もしかしたら、とホークアイは思う。
ロイはエドワードのことを諦めたのではないだろうか。
そう考えれば、ロイの行動に辻褄が合う。
ふと、もしかしたら、と憶測ばかりが頭を過ぎる。
既にロイはエドワードに気持ちを伝えていて、エドワードに拒絶されたのではないか。
全部憶測だ。憶測にしか過ぎないのに、考えてしまう。
ふとカレンダーを見つめていて、ハボックは呟いた。
「准将、何するつもりだろう」
それが、一番気にかかることなのだ。
一つ、溜息を吐くと、ファルマンがこちらを見て、「何か聞きたいことあるんですか、准将に?」と質問してきた。
それには敢えて答えなかった。自分でもよくわからなかったからだ。
「明日からだっけ。大将が戻って来るの」
休日出勤など当たり前になってきているので、日付が時々わからなくなる。それでも、その日だけは確かに覚えている。
一抹の不安があるからだ。
今回の休日出勤はフォルマンと一緒だった。
何故休日に仕事をしないといけないんだ、と思いもするが、基本的に軍に休みなどないのだから、仕方ないことだろう。
「ああ。そうですね、これでやっと仕事が楽になる」
ハボックの気持ちを知ってか、話題転換にファルマンは興じた。
「そうだなあ、大将飲み込み早いし、手際いいし、本当にいてくれると助かる」
そう言いながらも、ハボックは考えてしまう。最近、考えることが増えてきたような気がするのは、気のせいだろうか。
できたら、気のせいでありたい。
「なあ。ファルマン」
「何ですか?」
「准将ってさ…」
何か大将とあったのかな、と口にしようとして、そのまま口を閉じた。
俺何か不味いこと言ったかも、とハボックは思う。ロイがエドワードのことに執心していることは知っていた。
それでも、何故突然エドワードの同居人のことを言い出したのだろうと考えずにいられない。今まで何も聞かなかったのに。
無関心を装っているかのように。
ハボックはわかりにくいように、言葉少なくロイに返事をしていたが、上官のことだ、何か気付くことがあったのかもしれない。
士官学校出なのかと聞いてきたところをみると、以前ブレダと推理していたように、
エドワードの同居人のことについて知りたいことがあったのかもしれない。
「いや、別に。つうか聞けねえ」
怖くて、とはとても言えない。
「あ、そうそう。また飲み会をやるっていう話が出てるんですけど、知ってますか?」
「いや、知らない」
「飲み会の名目はエルリック少佐が新しく仲間になったことによる歓迎会です」
「名目はって。何だよ、それ」
「ブレダ中尉が企画したそうですよ」
「ブレダが?何で俺に話さなかったんだ?」
しかし、それよりも、思うことがある。
「でも、やろうとしてもメンバーが集まるか」
こうして、休日出勤をしているほどなのだ。とてもではないが、メンバーが集まるとは思えない。
この前のテロ事件の処理をしながら、ハボックはペンの背を意味なく机で叩いた。
「明日ならいいんじゃないですか。エルリック少佐も来るし」
「うーん。でも、准将予定空いてっかなあ。まあ、准将のことだから、大将の歓迎会って言えば出るだろうけど」
なんだかんだで大将のこと大事に思ってるし。
そう心の中で呟いた。
多分それは間違っていないだろう。
どこかで何かが擦れ違ったのだ。そう、何かが。
「大将はどうなのかなあ?」
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事態は思わぬ方向へ?という感じで新しい場面に突入してます…!
なんか更新四日に1度やれたらなあと思ってるんだけど、なんだかんだで忙しいので、更新遅いかもしれません。。。
なんていうか、やっぱり、周りにいる人たちが苦労人です。
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