仕事が漸く片付き、聞いていた飲み屋の扉を開けると、そこには馴染みの顔がそれぞれ、酒を飲んでいた。
しかし、その中で一人酔い潰れている者がいる。エドワードだ。
すっかり顔が机に伏せられている。どうやら顔を上げることも出来ないらしい。
「お前たち、未成年にどれだけ飲ませたんだ…」
そう思わず呟いてしまう。
前の歓迎会のときは、エドワードは酔い潰れてしまうような失態はしていなかった。だからこその言葉である。
しかし、実際には違っていたらしい。
「エドが自分から飲んだんですよ、一応止めたんですけど」
隣にいるブレダがそう答える。
全く、とロイはエドワードの肩を揺すった。
「エドワード。大丈夫か?」
「う…」
一つ唸って、エドワードは顔を上げた。その目は赤く充血しており、目は焦点を結んでいなかった。
「飲み慣れないのに、無茶をするからだ」
そして、腕を取ろうとすると、エドワードは手を払いのけた。
「触るな…!」
酔っ払いの行動だ、とロイはもう一度腕を取り、エドワードを立ち上がらせた。
しかし、アルコールが全身に回っているのか、立位がおぼつかない。
「触るなって言ってんだろうが!」
「一人で立ち上がることも出来ないくせに何を言ってるんだ」
「アンタの力なんか借りないっ!」
そう言って、ロイの手を払いのけた途端、エドワードは力を失ってふらついた。それをロイはすぐさま支えた。
「だから言っているだろう。無理をするな」
エドワードが力なく抵抗するのを無理やり、背におぶった。ここまで酩酊しているのだ。
恐らく、明日は二日酔いになるかもしれない。
「エドワードはもう無理だろう。連れて帰ることにする」
「主役が帰るんですか?」
今までロイの行動を黙って見ていたホークアイが聞いた。
「仕方がないだろう。連れて帰る」
「えっ。連れて帰るってもしかして、准将の家に?」
ハボックがそのことが一番問題だとばかりに、聞いてくる。
「当然だろう」
何せ、一緒に暮らしているのだ。しかし、そう言えばそのことを話していなかったことに気付いた。
「でも、心配するんじゃ……」
アパートにいる同居人が、という主語がハボックには抜けている。何故だか動揺しているように感じるのは気のせいだろうか。
「それはない」
詳しく説明する気は失せて、ロイはそのまま、エドワードを連れてその場を後にした。
帰る中も、エドワードの罵詈雑言は続いた。ロイの力を借りるのが癪なのだろうかと初めは思っていた。しかし、違うと気付いたのは、家に入ってからだった。
寝室まで運び、ベッドに下ろしてから、少しは大人しくなったとそう思っていたエドワードが口を開いた。
「アンタなんか大嫌いだ…」
酔っ払いの戯言だ、聞き流そうとした。しかし、そうするにはエドワードの瞳は鋭いものだった。
それが、引き金が引いたのだ。
自分の気持ちなど知りもしないでという一方的な憤りが全身を支配した。
エドワードはまた言葉を出そうと、口を開きかけた。それを、ロイが自分の唇で遮った。聞きたくなかった。
エドワードの両手を自分の手で押さえ込み、抵抗する力をも奪い取り、ベッドに押さえつけた。
初めは触れ合う程度のものだった。しかし、次第にそれだけでは物足りなくなった。
性急なキスにエドワードはロイに縋り付くことしか出来ない。
唇をこじ開け、怯えて縮こまっている舌を絡めた頃には、すっかりロイはエドワードを貪ることに夢中だった。
息継ぎもうまく出来ないエドワードにはとっては苦しいものでしかない。
それでも、合間に零れる声が妙に官能的に聞こえてならなかった。
ロイが満足し、解放したときには、エドワードはすっかり息があがっていた。
「君に嫌われようがどうでもいい」
もうどうでもいいとそう言った自分の顔がロイには想像がつく。きっと残虐な顔をしているだろう。
最初から無理だとわかっていたのだ。足掻いていた結果がこれだ。
そう思い、無力感に苛まれながら、ベッドから離れようとするロイにエドワードが追い縋るように手を伸ばした。
次いで、唇が押し付けられた。
驚きながらも、エドワードに応じながら、再びロイはベッドへと沈んだ。
何分、もしかしたら、何十分か飽きることなくキスを交わした。
「…………エド」
そして、顔を離したエドワードの瞳には痛みが顔を覗かせていた。
私は君を傷付けてばかりいるな、とそう思った。
「やだからな、オレは」
何が嫌なのかわからないが、エドワードは今にも泣き出しそうだった。
雲行きが怪しい、と思わず感じてしまう。
「大佐が嘘吐くの。何で嘘吐くんだよ。わけわかんねえよ。
大体何だよ、アンタは人の気持ち引っ掻き回しといて、それで嫌われようがどうでもいいだと?何様だ、アンタは」
昔の呼称を言われて、ロイは我に返ったような思いを味わった。
「子供扱いするなよ。アンタは、オレのことずっと子供だとそう思ってたんだろうけど、でも、オレはもう、そんなんじゃないっ」
そう言って起き上がった瞳には涙が盛り上がりそうだった。
「オレのこと認めろよ。ちゃんとオレのこと見ろよ。アンタなんか大嫌いだ」
馬鹿、死ね、アホ、という罵倒の言葉がどんどんエドワードの口から出てくる。
それを自分が言わせているのだとそう気付いた途端、言わなくてはならないのだとそう思った。
「私は君のことが好きだよ」
ずっと前から、とそう付け足す。
恨みがましい目でエドワードが見てくる。わかっていたことだが、信じてもらえてないらしい。
「信じない?」
「当ったり前だろ、ボケ」
今のエドワードからは口を開けば、悪口が出るようになっているらしい。
「どうしたら信じてもらえる?」
「じゃあ、イズミ先生にあなたの弟子と付き合わせて下さいってそう頼んで」
「冗談だろ、それは」
「いや、マジで」
それよりも、確認しなくてはならないのがあるだろう。しかし、とふと気付いた。
エドワードの先ほどの言葉は付き合うことを前提としていた。
「君の答えは?」
「……………………………誰とでもキスなんかするかよ。酔っ払ってても」
そして、目元を赤くするエドワードに、もう一度キスをした。
キスだけでは、物足りなくなるのに時間は要らなかった。以前と見る視点が違っているのは薄々勘付いていた。
未成熟な身体に欲情している自分に嫌悪するものの、彼の全部を暴きたいとそう思う気持ちに歯止めは利かなかった。
征服欲とも似たその感情に流されそうになりながら、ロイはエドワードの服の釦に手をかけた。
するりと外れていく釦にエドワードは視線を流した。身体が凍り付いてしまっているかのように、身動きをしない。
瞬きさえ、止まっていた。緊張しているのがわかる。
インナーの中に手を入れ、程よく筋肉のついた身体に直に触る。
途端にぴくりと緊張する身体にきっと怖がらせてしまうのだろうとそう思う。
顔同様、熱を身体は伴っていた。自分が今何をしたいのかそう言えば、きっとエドワードは怖がるだろう。
しかし、宥める術を持っている自分をロイ知っている。
「エド、私は君が好きだよ。怖いくらいにね」
え、と顔を上げたエドワードの唇をロイは塞いだ。
だから、もしかしたら、ロイの言葉をエドワードは覚えていなかっただろう。
→
|
|