目覚めた朝は信じられないほど、身体の節々が痛んだ。
その痛みに昨日の夜を思い出さずにいられなかった。
「信じられない…」
そう思わず口にしてしまうが、心の底では満たされていた。
隣の男を見遣る。
ロイは気持ちよさそうに眠っていた。恐らく、未だ夢の底にいるのだろう。
「…………オレ、本当に准将と」
やっちまったんだな、と思うと昨日の密度の濃い時間を思い出した。途端に自分のしたことを思い出した。
あれは自分であって自分ではなかったのだとそう思う。
なんだか、恥ずかしいことを何度も口にしたし、恥ずかしいことばかりしていたのだとそう思う。
それでも、求められているのがわかって、ロイのことがとても愛しく感じられた。
可愛いと思った。嬉しいと思った。
「准将の寝顔初めて見た」
へへへと何だか、得した気分になり、エドワードは誰も見てないよな、と確認してから、ロイの頬に軽くキスをした。
そこへ、突然電話が鳴る。
取るべきかどうか迷ったものの、このままでは、ロイが起きてしまうと思うとエドワードはシーツで身体を包み、電話へと走った。
こんな朝から電話があることは珍しい。エドワードの中では空間を切り裂くような電話の音は不吉なものに聞こえた。
一瞬逡巡した後、エドワードは受話器を持ち上げた。
「はいはい、エル………じゃなくて、マスタング」
「お前、何でそこにいるんだよ」
突然の声に寝ぼけていた頭が覚醒する。
同居人からの電話だった。
「お前、何で准将の家の電話番号知ってんだよ!」
「連絡網だよ、お前、ちょっと頭ぼけたんじゃねえの」
「お前、その連絡網悪用してないだろうな」
「するわけないだろ、捕まるのやだし」
「何の用だよ、准将に」
自分に用ではないだろう。誰の家に厄介になるのか話してもいなかった
。だったら、ロイに用があるのだろう。唐突に黙る声に嫌な予感がする。
「………話せよ」
「あいつが浮気してた」
「浮気って」
彼女のことだろう。信じられない。いつだって、彼女は同居人のことを悪く言っていた。
しかし、浮気をするような女性ではなかった。
「裏切ってたんだよ、ずっと」
いつものあの飄々とした男はどこに行ってしまったのだろう。何にも囚われていないとそう思っていた男は。
「ちょっと待て」
この展開では、その浮気相手は――。
「見たんだよ、一緒にいるところ」
「ちょっと待てよ!」
もしかしたら、ホークアイが見たのは――。
「なあ、以前で懲りたろ?また裏切られるぞ」
男は何故エドワードがロイのところにいるのか、理由を察しているらしい。
エドワードは弁明も何もせずに、受話器を元に戻した。
もしかしたら、また直ぐに電話がかかってくるかもしれないとそう思ったが、電話は鳴らなかった。
信じたい、とそう思っている、ロイを。
それでも、掛かってきた電話や、以前女性を抱き締めていた腕、嘘を吐かれたことを思い出した。
准将が?
エドワードを好きだったとそう言った言葉に偽りの響きは感じられなかった。
エドワードは寝室に戻り、ロイの寝顔を見た。
その寝顔に安堵する。
「……………本当にオレのこと」
好き、とそう聞きたい。何もかも初めて。何もかもわからない。
先ほどまで幸福の中にいたのに、いつの間にか底まで引きずり込まれている。
そして、考え込んでいるエドワードをぱちりと目を開いたロイが抱き締める。
「うわっ」
「可愛いな、君は」
「何がだよ!」
焦って腕の中から逃げ出そうとするが、ロイは簡単に離そうとしない。
「キスしてくれるとはね」
「起きてたのかよ!?」
「君が何をするのか待ってたからね」
恥ずかしさのあまり頬に熱が溜まる。
子供にするかのように、頬に額に鼻に軽くキスをされる。甘やかされていると思いながら、甘やかされるのが気持ちいい。
砂糖菓子か何かとても甘いものになったような気分だ。
「なあ、准将」
「何だね」
今から、恋人を試すようなことをしている。そう思いながら、エドワードは口を開いた。
「さっき、電話かかってきて」
「ああ、残念だったよ。せっかくの君からのキスが」
「ちゃんと話を聞けよ!」
苛々した。何だか子供扱いされているようで。
「女の人からの電話だったんだけど。オレが出たら、直ぐに電話を切っちゃって。
若い女の人の声で、オレが取ったら唐突に切っちゃって」
「ああ、そうか」
合点がいく様子のロイに一番聞きたかったことを聞いた。
「その人、准将のどんな人?」
「相談を受けてるんだ」
嘘だ、とそう思った。何があるのかがわからない。どうして、嘘を吐くのかもわからない。
「あのさ、准将」
本当にオレのこと好き、とそう聞きたい。何で嘘を吐かなければならないのか、さっぱりわからない。
「エド」
ロイの手がエドワードの頬を優しく挟んだ。エドワードは反射的に目を閉じていた。
が、顔が近付いたのを感じた途端、「やだ」と顔を背けていた。
女と何をしたのかと思うと。
「ごめん」
「私が信じられない?」
「ごめん」
だって、何もかも初めてでわからないんだ。
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