アンタとオレは違うから。
そんな言葉を飲み込んだ。
ロイの周囲にはいつも女性の影があった。いつもいつも周囲には女性がいた。
そんな場面をこれまで何度か見たことがあるエドワードには猜疑心が募っても仕方がないことなのかもしれない。
本当にエドワードのことを好きなのかも怪しく思えてきた。
ただ単にロイはからかっているだけなのかもしれない。
影では、男にのぼせている自分を嘲笑っているのかもしれない。
そう考えてしまうと地の底にまで落ちていくように気分が沈んでいくのを覚えた。
エドワードは自分が乗り上げたベッドマットに目線を移した。
何か言わなくてはと思うのだが、このときとばかりに、言葉が出て来ない。口の中が徐々に渇いていくのがわかった。そんなエドワードをロイがじっと見つめていることも視線からわかる。
何故言えないのだろうと普段の自分のことを思う。
どうして嘘を吐いているのかとただそう言えば、解決することなのかもしれないのに。
視界が逆転するような、そんな感覚を覚える。
「エドワード」
ロイの視線はどこまでも穏やかだった。そこには信じてくれないのかという不満も見つけられない。
その視線に応えることができず、エドワードは視線を泳がせた。そして、自分の姿を再確認する。
シーツに包まった自分の姿を。唐突に、酷く自分が無防備な姿を晒していることに気付かされる。
「うん…」
おざなりな言葉になってしまう自分が歯痒くして仕方がない。
「私のことを信じてくれないか?」
そういうロイの目を見た。そこには何も揺らぎがなかった。ただただエドワードを見つめている。
じゃあ、何で嘘を吐くんだ?
そんな思いを噛み締めているエドワードをロイは見ていた。
仕事が終わり、ハボックは中庭で煙草を吸っていた。
司令部内は禁煙であり、肩身が狭い彼は休憩中に煙草を吸いに戸外に出ることが多いことをエドワードは気付いていたのだ。
しかし、何故か知らないが、ハボックはひたすらロイとエドワードの顔を見ないようにしていたと思う。
話し掛けても苦笑いばかりが返って来て、どうしたのだろうとフュリーに尋ねたくらいだ。
しかし、フュリーもわからないらしく、「失恋したんですかね」と当人に聞かれたら、失礼なことを口にしていた。
中庭は木で構成されている司令部で唯一の緑の場だった。その木々の一つ、木の影にハボックはいた。
そのため、彼の表情がよくわからなかった。しかし、どこか優れない表情をしているように見えた。
紫煙が立ち昇る、その先を思わず、エドワードは追った。
「あのさ、聞きたいことがあるんだけど」
それでも、とエドワードはハボックの傍まで駆け寄ると、ここまで来た用件を切り出した。
途端に、ハボックの顔があからさまに険しくなったのをエドワードは認めた。
「ハボック中尉?」
どうしたんだ、とエドワードがハボックの顔を見上げれば、彼は天を仰いでいた。
「いや、すまん、エド。オレがあのときちゃんと止めていれば!」
「何言ってるんだ、中尉…」
「わかっている。言わなくてもいい。後からすごい後悔したんだ、今頃どんな目にエドが遭っているかと思うと」
「中尉、話を…」
「准将やること早いし…」
エドワードはハボックを一瞬殴ろうかとそう思ったが、それよりも、顔が赤くなる方が早かった。
昨日の一夜を思い出してしまい、どうにも顔が赤くなるのを抑えることができななかった。
周囲を思わず、確認してしまう。しかし、運が良かったのか、人は見当たらなかった。
「やっぱり」
ハボックの哀れむような視線を受けて、エドワードは「違う。違うんだってば」と否定した。
「いいんだ、エド。ごめんな、止めれなくて」
「だから、違うってば!」
「准将、エドのこと好きだし、エドも准将のこと好きならそれで」
「何言ってるんだよ、中尉…」
おろおろうろたえてしまうエドワードは重ねてつい言った。
「オレと准将はそんな関係じゃないから!」
そう言うと、ハボックはそうかと安堵の笑顔を見せた。しかし、表面上は取り付くっているような。
ますますエドワードはうろたえていくのを自覚せざるを得なかった。
「でも、今日も一緒に司令部に来てたろ?昨日も」
「それはたまたま一緒になっただけで…」
「前まで准将、オレに迎えに来いって言ってたのに」
「そんなの准将の気まぐれだろ。多分、徒歩で行きたくなったんだろう?」
「だって、准将とエドのアパートって逆方向だろ?」
何故知っているのだろうと思ったが、途中まで一緒に帰ることがあったからだろうとそう気付いた。
もうエドワードはハボックに何を言えばいいのかわからなかった。
何故自分たちの関係を否定しなくてはならないかもわからなかった。
ただ、無性に恥ずかしかったのだ。
「オレ、アイツのこと好きじゃないし!それに、アイツだってオレのこと好きなわけないし!」
なんだか泣きたくなるのを覚えた。目の奥が熱い。
「だから、中尉が思っているようなことは何も…」
エドワードはロイの家を出ようと決意した。アパートを見つけるまでという約束だった。
しかし、アパートをエドワードは探していなかった。仕事が忙しなかったこともあったし、自分は役に立っているという理由付けをして、いつまでもロイの傍にいたかった。
しかし、ハボックが謝るように、自分たちの関係など厄介なものでしかない。
男同士の上に、階級の差もあり、上官と部下との恋愛など小説のようなものでしかない。
歳の差も14も離れているとあれば、もう笑えないだろう。
「エド」
「だから、中尉が思っているようなことはないんだ、何一つ」
「別に悪いと思っているわけじゃないんだ」
エドワードの気持ちに気付いたのか、ハボックが宥めるようにそう言った。
「ただ、二人のことを思うとな、あまりいいとは思えないだけで。それより、何だ、聞きたいことって。
俺で答えれる範囲内であれば、答えるぞ」
とりなすようなハボックの言葉にエドワードは俯いていた顔を上げた。
人のいいハボックにまた不安の種を蒔くわけにもいかず、エドワードは「大したことじゃないんだ」とそう笑顔で断った。
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