仕事も終わりに差し掛かり、ロイはふっと一息を吐いた。 ちらりとエドワードを見ると、視線が合い、少しだけ笑って見せたのだが、何故か固い表情をするだけだった。 まずいな、とそうロイにも事の重要さが理解出来た。 信じて欲しい、とそう言ったが、エドワードには理解してもらえなかったのだろう。 きっと、好意を認めてくれていない。いや、認めてくれないというよりも、信じてもらえてないのだろう。 それはきっと今までの自分の行状が原因なのだろうとわかってはいるが、だからといって、覆せると言うわけでもなかった。 身体を重ねて、お互いの気持ちを確認したとはいえ、それは簡単に揺らぐものでしかなかったのだろう。
それにしても、一体何故また彼女から電話が掛かってきたのだろうか。 もうこれを最後に、と会わないことにする、とそう言ったのは確かに彼女からではなかっただろうか。
彼女から話を聞き齧ったところ、やはり、男は唐突にエドワードと住むことにしたから、とそう話したらしい。 これは以前彼女自身が口にしたことだった。

「理由なんて知らないよ。言わなかったから。 でも、ちょっとだけ、アイツ嬉しそうだったら、何こいつ私がいるのにって思ったこと覚えてる。 友達って聞いたら友達の友達ってそう言ってた。あいつに友達なんているわけないのに、嘘なんて吐いてさ、最低だよ」
「確かにそう言ったんだね?」
「そうだよ、そう言ったもん。やばいことしようとしてるんじゃないかなとか思ったりしたけど、別にそういう感じじゃなかったし」
「そうか」
女性は目の前にあるケーキへとフォークを突き刺しながら、ふと思い出しように呟いた。
「何がそんなに気になるの?」
なかなか目敏いところを見せる彼女に、不審感を抱き始めたかなとそんな兆しを感じた。
「一度君の恋人に会ったことがあってね」
「やな奴だったでしょ、あいつ。だから、部下が一緒に暮らしてるって聞いてどうかなと思ったんだ」
自分で回答を導き出すと、彼女は溜息を吐いた。
「私、あいつときっぱり別れる。それで、今まで思っていたこと全部ぶちまける」
「それがいい」
実際そう思ってもいた。
賛同する意見に彼女が何を思ったのかは知らない。
「今までありがとう。私にも相談してくれる相手がいるのって嬉しかったよ。 もうこれで会わないことにするから、汚名返上できるといいね」
私と会ってたことをね、とそう口にした彼女は自分が巷でロイ・マスタングの恋人だと思われていることを知っていたらしい。 数回彼女とは会っていただけだったが、どうやら、そう誤解されるに十分なことを自分はしていたのだとそう思う。 女性と会う機会が減った中、特定の女性にあっていれば、本命だ、と思われるには十分だったのだろう。 ただ単にエドワードが好きだと自覚してからは、興味をなくしたからだったのだが。

女性と複数会っているようにしたのは、出世の代償に見合いを上層部から持ち出されるのを防ぐ目的もあった。 若い出世頭に娘を託そうという親心を持つ親がいたからだ。それなりに付き合っていれば、情も湧く。 それはしたくなかった。実際に、そんなつもりはないのだと言ったとしても、結婚の願望をちらりと口にする者が中にはいた。

そんなことを思い出していると、ハボックが執務室のドアを開けて入ってきた。 長身を生かすべく、電球の入れ替えを頼まれていたのだ。頼んできたのが若い女性というのがあったかもしれない。

「准将、ちょっと総務が呼んでるんですけど、来てもらってもいいですか?」
「総務が?」
何故呼ばれなくてはいけないのかとそういぶかしんでいると、重ねてハボックは言った。
「早くということです」
一瞬、本当に一瞬だったが、ちらりとハボックはエドワードに視線を移した。それをロイは見逃さなかった。 恐らく、今ハボックが言ったことは嘘なのだ。
「わかった」
ロイは立ち上がり、ハボックも「ちょっとまた行って来るわ」と皆に声を掛け、執務室を一緒に辞した。

「あの。准将」
一緒に話しながらの密談である。 どこかに固まって話をするよりは、不自然ではない。 廊下に行き交う軍人に擦れ違うときは、挨拶でその場を誤魔化した。
窓を見遣るときらきらと日差しが入って来ていた。きっと今日はいい日になる。
「エドのことなんですけどね」
「何だ?」
「なんか見ていていじらしいですよ。あんまり苛めないで下さいね」
「苛めてなどおらん」
そう言うと、本当ですか、と返って来る。
「エドはきっと不安なんですよ。准将に迷惑掛けてるしとか言って」
エドワードと関係を持ったことに一番気付いたのはハボックだったらしい。 迷惑など掛けていないだろうに、とそうハボックは言いたいのだろう。逆だと。
「それに何か聞きたいことがあったみたいで、多分、准将のことだと思いますよ?結局聞きませんでしたけど」
私に言えば良かったのに、とそう思うが、エドワードは私に聞けなかったのだろう。
「――――お前、エドワードのことが好きだったのか?」
「幸せになって欲しいだけですよ」
溜息を吐かれたところを見ると、呆れているのだろう。