「オレ、ちょっと仕事片付いてないから、准将先に帰れよ」
そうどちらともなく、視線を合わせた後、エドワードが口にした。
「待っているが」
「駄目。アンタ明日会議があるだろう?渡した書類家に持ち帰って予習しとけ」
「君は私の楽しみを減らす気かね?」
「何子供みたいなこと言ってるんだよ、さっさと帰れ」
「エドワード、私たちは話さなければならないことがあるように思うんだ」
何だよ、それ、とエドワードは瞠目した。話さなければならないことの内容とは何なのだ。ふと、溜息を吐きそうになった。
身体の関係を持ったからと言っても、何も自分たちは変わっていない。
エドワードはいちいちロイの言葉一つで振り回されている。
「オレはないよ?」
「信じて欲しいと言った」
執務室には既に人がいなかった。茜色の空もいつしか遠くに消えてしまい、暗闇が空を覆い尽くそうとしていた。
エドワードは同居人のアパートへ一度行こうと思っていた。そして、話をすれば、何かが変わるのではないかとそう思ったのだ。
それなのに、それを阻止しようとするロイに苛立ちを覚えた。
「どうせ、アンタはオレのこと馬鹿だと思っているんだろう?」
「何を」
「からかって面白かったかよ?影で笑ってたんだろう、オレのこと」
止まらない、このままではきっと終わりを告げてしまう。
駄目だったん、初めから。そんな思いが湧きあがってくる。
頬にぱんと乾いた音が鳴り、火照った
あ、とエドワードは思った。ロイに殴られたのだとそう理解した。
「言っていことと悪いことがある」
何だよ、アンタは嘘ばっか吐くじゃないか。
信じて欲しいとかそんなこと言っておいて、何を信じろと言うんだ。
一体何を?
信じさせてくるものなんて何一つアンタはオレに見させてくれないじゃないか。
泣きそうになって、エドワードはそれを食いしばって耐えた。
代わりに心の奥底で思っていた言葉を遂に吐き出した。
「――――アンタの一体何を信じればいいんだよ?」
終わったと思った。
もう自分たちは、と。
叶わないと思っていた思いが叶った、とそう思った途端、弾けてしまった。
だって、オレ初めてだから。
何もかもわからない。
「もういい。オレ先に帰るから」
「片付けは」
「明日やる」
そう言ってエドワードは上着を手に、廊下へと続くドアノブを回した。
手応えのある音がして、簡単にドアが開いた。
一瞬、ロイが止めないかとそう思ったが、そんなことにはならなかった。
どこかで甘えている自分にエドワードは気付かずにはいられなかった。
廊下をどしどしと歩きながら、憤りが駆け抜けてくるのをエドワードは感じずにはいられなかった。
「…………准将が隠し事をするから」
いけないんだ、とそうエドワードは思う。
一旦収まった感情は再び飛び立とうとしていた。
「そうだ、オレは悪くない。全部准将が悪い、准将が!」
そう手を握り、勢いよく口にしたところで、ふと思い立ったように気分が沈んでいくのを覚えた。
傍にいると疲れる。
そう、実感した。
自分が掻き乱される。こうであると思っていた自分がいなくなり、別の自分に占拠される。
「何だ、ロイと何があったのか?」
その声に、エドワードは顔を上げた。
そこには、ヒューズがいた。
「ヒューズ大佐!」
「よう」
「准将に何か用?」
「ん〜。まあな。ほら、また手紙」
「あ!」
そういえば、住所を教え忘れていた。賢明な弟のことだから、住所を既に知っていると思っていたのだが、違っていたらしい。
しかし、アルフォンスかと思いきや、手紙の主はウィンリイ・ロックベルだった。
「女から手紙たあ、やるな、エド!」
「ウィ、ウィンリイは幼馴染だ!」
何となく、嫌な予感がした。それはいつもリゼンブールに帰った際、スパナを頭に見舞われていることが原因の一つかもしれない。
ごそごそと封を開け、手紙をだした。そこからは、女らしい丸みを帯びた文字でが踊っていた。
「覗くなよ、ヒューズ大佐」
ちらちらと手紙を読もうとするヒューズにエドワードは背中を向けた。
「いや、気になってな」
親愛なるエドワード・エルリック様へ
一度リゼンブールに帰って来なさい。
因みに戻ってこなかったら、私が直々に赴くから、覚悟しときなさいね。
ウィンリィ・ロックベル
手紙の文面からどれだけ、ウィンリイが憤っているのか知れた。その分、行かなければどんなことになるのか想像がついた。
短い文面でこれだけわかるということは珍しい。
「何て書いてあったんだ?」
「……脅迫状」
「脅迫状?」
「マジっぽい。オレ、ちょっと電話かけてくる」
そういうエドワードの瞳には力がなかった。そんなエドワードを見送りながら、ヒューズは溜息を吐かざるを得なかった。
「おい、入るぞ」
形だけのノックをして、ヒューズは目的だった執務室の中へと足を踏み入れた。
「何の用だ」
長年の親友はヒューズを一瞥しただけで、椅子に深く掛け直した。
もしかしたら、ヒューズ以外の誰かが戻ってくるのではないかとそう思ったのかもしれない。
「ほらよ、頼まれてた奴の調書。結構前だったから、見つけるのは大変だったぜ」
はっとしたような顔をするロイに忘れていたのかとそう思う。
きっと、嫌な遣り取りをエドワードとして引きずっていたのだろう。不器用な男だとそう思う。
調書を渡すと、中身を確かめるように封筒を見遣る。いつになく慎重なロイにヒューズは驚きを隠せない。
男の名前は、デニス・マクレガー。一度、少女に売春をさせた容疑で捕まっていた。
とりたてて、珍しいというわけでもない。それなのに、何故この男を調べてくれとそう言ったのか。
「この男が何かテロに関係しているのか?」
以前テロ事件が起こったとき、既にテロ事件は首謀者も捕まえ、解決していた筈だった。
しかし――。
「いや、これは私の個人的な興味だ」
そして、笑ったその顔はどこか凶悪にヒューズには映った。
→
あと、2、3話で終わるのに、更新とろくてすみません。
というか、誤字脱字とか全然直せてないです。。。
|
|