「エドワード」
がちゃりとドアが開き、入ってきたのはロイだった。
ロイの目は少なからず、驚きがあるのをエドワードは認めた。
「いたのか?」
「いちゃ悪いかよ」
「そんなことある筈ないだろう。ただ、今日は家にはいない気がしたんだ」
そして、コートを脱いだロイはエドワードに今日の遣り取りがなかったかのように、声を掛けた。
「それより、お腹はどうだ?夕飯にしようか」
「いいよ、別に腹は減ってないから」
「じゃあ、私が作ろう」
「いいよ、准将自分で料理作れないだろう。オレ、作るよ、簡単なものでいい?」
冷蔵庫から何かないかと探すが、出てくるものはバターやチーズなどといったものしかなく、作ろうとするには無理があった。
そういえば、今度一緒に買い物しようとそう言っていたのだ。
それは、確か今日のことだった。
だから、ロイは一緒に帰るのを待っていたのではないのだろうか。
それなのに、エドワードはずっとロイのことを疑って、調べようとさえしていた。
自分の醜さを知った思いだった。
そう思った途端、エドワードは嫌になった。自分自身のことも、何もかも。
途端に、瞼が熱を帯び始めたのを感じずにはいられなかった。
泣きそうだ、とエドワードは思った。
「あのさ」
「何だね?」
「アンタってどういう女が好きなの?」
「一体何を…」
「答えろよ!」
ぎろりと睨みつけたものの、鋭さが入っていたかはわからない。
困惑したかのようだったロイは観念したのか、口を開いた。
「そうだな、綺麗な人が好きだよ。綺麗で、こちらの言うことをきちんと理解してくれるような、賢い女性がね」
「じゃあ、何でオレが好きなんだよ」
「妬いていたのか?」
「アンタなんかに妬くわけないだろ?自惚れるな、ばーか」
言いたいことはこんなことではない筈なのに、自分の口からは憎まれ口しか出てこない。
「だったら、言わせてもらうが、君はどうなんだ?」
「オレ?」
「そうだよ、君の好みは?幼馴染のウィンリイ嬢みたいな子が好きか?」
「何でそこでウィンリィが出て来るんだよ…」
脱力に駆られてしまう。そういえば、今日はヒューズにもからかわれた。
そうか、ヒューズはロイとの間柄を知らないから、とふと思った。
「ウィンリィとはただの幼馴染だよ」
「じゃあ、君の好みは?」
「そりゃあ、可愛い子だよ…」
「ほら、違うじゃないか」
何故そこで得意そうになるのかエドワードにはわからなかった。
「そうだな、私はどうして君が好きなのか自分でもよくわからなかったよ。でも、好きになるのが好みの人だとは限らないだろ?」
「そうだよな。オレだって何でアンタみたいなおっさんかって最初そう思ったよ」
「おっさんとは失礼な」
「充分おっさんだろ。オレとは歳も14も離れてるし」
そう笑って言ってから、暫し、自分の言葉に傷付いた。
好きになることとはもっと優しいことだと思っていた。しかし、実際には違っていた。そのことがよくわかった。
ごめんな、俺だってこんな気じゃなかった。
受け入れられないかもしれないけど。
でも、認めてくれないか。
士官学校に通っていたときの一番親しかった友人の顔を思い出した。
切羽詰った顔をして、そう言った友人をエドワードは否定した。
彼はきっと傷付いていた。
最初に謝っていたのに。
のしかかってくる身体を受け入れられなかった。
信じたくなかった。
自分がそういう風に見られていることにも、友人だと思っていたのに裏切られたことも。
会ったとき、デニスはそのことを知っていた。
彼がその友人と親しかったことも彼の口調から、気付かせないようにしてはいたが、わかった。
「俺とさ、暮らせば、丸く納まるんじゃない?そういう風に思わせてさ。
お前、これからもそういう目に遭うかもしれないし、俺、女以外興味ないしさ」
そういう彼は、多分その友人のことを守りたかったのではないかとそう思う。
友人の地位は保証されていた。士官学校を出るとき、既に何処に配属されるのかも暗黙の了解となっていたくらいだ。
そんな彼の起こした「不祥事」は、じわじわと下火のように周囲に噂として広がっていた。
エドワードはそんな彼と顔を合わせることがあっても、いつも顔を背けてしまっていた。
いつも一緒にいたのに、何かあると思わなければ不思議だろう。
もしかしたら、彼はそのことを直接デニスに相談したのかもしれない。
今ではそう思える。
「オレ、アンタのこと信用してないんだと思う。今日言ったけど、
アンタがオレのことからかってるんじゃないかってどうしてもそう思うんだ。アンタが、信じて欲しいってそう言ったけど、
でも、オレはそれは出来ないんじゃないかって思うんだ。それに、そのオレたちは――」
色々なリスクを背負っている。
そう、エドワードが視線を落としてしまう。
「オレ、アンタのこと好きだよ。好きだけど、でも――」
シミュレーションを頭の中で何度も繰り返した。
別れよう、とそう何度も口にした。
ロイは何度も痛ましそうな顔でそんなエドワードの言葉を聞いていた。それでも、最後まで言えた。
それなのに、その言葉が出てこなかった。
「もし、君が私のことを信じてくれないのなら、それは私の責任だ。きっと誤解されるようなことがたくさんあったんだろう」
エドワードは視線を落としたまま、ロイの言葉を聞いていた。
ロイの口から終わりが告げられるのなら、それを受け入れようとそう覚悟を決めた。
「でも、未だ君が、私のことを好きでいてくれるのなら、私にチャンスをくれないか?」
「チャンスって何だよ、それ。そんなチャンスなんてくれたってきっとオレは…」
アンタのこと信じられない。
これからもきっとこんな思いを味わうのだろう。
「信じてくれなくても、君がずっと一緒にいてくれるならそれだけで幸せなんだ」
現金なんだ、私は、とそう言うロイがとても痛ましかった。
と、同時にとても愛しい。
オレって馬鹿だ。
そう言いつつ、ロイのことを振りほどけない自分をエドワードは知っている。
「何でオレ、アンタが好きなんだろう?」
そんな自嘲が思わず、エドワードの口から滑り出た。
「お互い様だ」
そう言って、ロイはエドワードを自分の口で塞いだ。
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