ヒューズに廊下で会ったのは、暫くしてからだった。
恐らく、ヒューズは間を置いてからロイと会おうとしていただろうことが知れた。
「お前、何も動いてないみたいだけど、俺に頼んだ奴って本当は何してたんだ?」
「そんなことを気にしてたのか。案外お前も小さい奴だな」
「あのなあ、突然夜中に電話してきて、調べて欲しい奴がいるんだって言われりゃあ、気にならない奴のがいないだろうよ」
そして、暫く他愛ない話をしてから、肝心な話をしようとしないロイを動揺させようとしたのだろう。ヒューズが小声で囁いた。
「ところで、聞いたぞ、エドの奴、お前と一緒に住んでいるんだって」
「ああ。都合いいだろう」
「うわ、やらしい」
「何がやらしいだ。変なことを考えただろう、今、お前」
「何言ってんだ、もうそういうことなんだろう」
そう言われて、ロイは顔を背けた。
「うわ、気色悪い。今、照れただろう?30代の男がそんなことをするな。恥ずかしい奴だな」
「うるさいな、ヒューズ。焼くぞ!」
指を弾く真似をするが、ヒューズは気にしたりしない。
「でも、気を付けろよ。エドのことを知った奴がエドを狙う可能性があるからな」
「そんなことをする奴は地獄に落としてやる」
冗談ではない言葉にヒューズは顔を引き攣らせた。
「お前、本気なんだな」
「あの子相手に手は抜けないからな」
何もかもこれからだ。まだまだ足りない。あの子の全てを手に入れるまで。ロイはいつしか笑っていた。
無邪気な子供がカエルを潰すような――。
ヒューズは一瞬諌めようとしたのだと思う。これまで何度もしてきたように。しかし、彼は今度はしなかった。
「そろそろ俺は行くな」
「ああ。忙しいみたいだな」
「一人やめたからな。やっと仕事覚えたところだったのに」
「大変だな」
「全くだぜ、そのせいで、愛しのグレイシアとエリシアに会う時間が減ったんだぞ!」
「まあ、頑張れ」
「ムカつくな、その言葉…」
ヒューズは知らないが、ロイがその男を解雇したのだ。
推測などではなかった。ちゃんと確認を取ったのだ。
その男は士官学校時代にエドワードに対して、邪な感情を抱いていた。
そして、その男が取った行動をロイは決して忘れ去ることは出来ないだろう。
男は以前から中央司令部勤務を希望しており、今回願いが叶い、中央司令部勤務となった。
その男がどうして中央司令部で働きたかったのかは推察できる。彼はエドワードのことを見守っていたかったのだ。
ハボックに同居人と暮らしていると話したのは間違いなく彼だ。恐らく嫉妬じみた感情があったのだろう。
その彼が、デニス・マクレガーの友人であることも調べがついた。余計に、焦燥が襲ったことは間違いない。
だから、ロイは彼を左遷させるに十分な過失を捏造したのだ。
それはとてもとても瑣末なことだった。本人も唖然としているだろう。
何故、デニスがエドワードと一緒に暮らそうと思ったのかは聞いてみなければわからない。
しかし、何となくではあるが、ロイにはわかりそうな気がした。
ヒューズがどこか遠い目をしたように思う。まるで、何かを探しているような。
ヒューズと別れた後、直ぐにエドワードと廊下にて顔を合わせた。
「准将」
手には書類を持っているところを見ると、ロイに用事があるのだろう。
「何だ、エルリック少佐」
自分としてはかなりの笑顔だったとそう思う。しかし、対するエドワードはつれなかった。
「何だじゃねえだろ、いつまでさぼってるんだよ、仕事が溜まる」
「君は本当に私のことを上官だと思ってるのかね?」
「思っているさ。だから、アンタが働いてくれないと部下が困るんだって」
「まあ、部下以前に私の恋人だがね」
「ばっ、馬鹿なこと言ってるんじゃねえ、聞こえたら…」
「聞こえてないよ」
例え、聞こえていたとしても、踏み潰すだけだ。
新雪を散らすように。
後に残るのは点々とした跡だけだ。
覗くのは地表。
「アンタが困るだろう?」
「困らないよ」
エドワードが困ったように項垂れたのを、ロイは確かに認めた。
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