しかし、だからといって、せっかくだから、とたまにはみんなで飲みましょうよ、との声があった。 デートの約束を取り付けようとしたロイに「たまには俺たちとデートしましょうよ」とハボックにまとわりつかれ、 近付くな気持ち悪いと容赦なく傍から追いやったものの、たまにはいいか、とそう考えを改めた。 今日ならいいぞ、とそうロイはハボックに言った。エドワードのことで苛々している分、週末は女性と会いたかった。 結果として、エドワードの歓迎会は出来なくなってしまったが、仲間内で気軽に飲むのもいいだろう。 エドワードとはあの会議室での一件以来、顔を合わせると表面だけは取り繕っている。 が、言葉に刺があるのは否めない。 大人気なかったかもしれない、とそう思ったものの、憎たらしさが先立ち、刺のある会話へと発展してしまう。 エドワードが一言謝罪すればこちらも折れてやるのに、という気持ちが次第に強くなり、こちらから何かする気持ちは薄れた。




先ほどとてホークアイと会議の打ち合わせをしながら歩いているときに、 タイミング悪くエドワードが他の軍人と歩いているところに廊下で出くわした。
上官に挨拶するのは必然だろう。その例に漏れず、エドワードは挨拶した。
「おはようございます、マスタング准将」
笑顔付きでロイ以外の者だったが好感を持ったことだろう。 しかし、実際にロイが持ったのは、決して好感ではない。ので、その笑顔は憎憎しいもの以外の何でもない。
「やあ、エルリック少佐。相変わらず背が小さいね。話し掛けて来なかったら、気付かずに通り過ぎてしまうところだったよ」
はっはっはと笑えば、エドワードは笑みを濃くした。心なしか、ぴくりと眉が引き攣った気がした。
「准将は若くして将官になられた方ですからね、どれだけ嫌でも顔を覚えさせられますよ」
その言葉には刺以外の何も含まれていなかったと思う。 エドワードの隣に寄り添っている軍人が顔を青くさせている。 ロイは顔が引き攣りそうになるのを感じながらも、笑顔で応対する。
「そうか、有名ということか。有難いね」
「准将の話は色々耳に入ってきますよ。もう少し色々と自粛した方がいいんじゃないですか」
「何だ、いい話ではないのかね?」
勿論、エドワードがいい話をするわけないのだが、それでも、そう聞いた。
「残念ながら。准将のいい話が耳に入ってくるのを楽しみにしてますよ」
そのような会話を聞きながら、仕事の片棒をしている一人は、聞かなかったふりをし、もう一人は呆れ返っていた。 勿論、前者がエドワードの同僚で、後者がホークアイである。 その後、ホークアイからは怜悧な視線が刺さってきた。




今思い出しても腹が立つ。
「准将、そんな顔をしていると女の子が逃げ出しますよ」
「うるさい、お前は黙ってろ」
そう一喝するも、苛立ちは思い出したからか冷めることはない。
ロイはふと、唇の端を持ち上げた。
「そうか、そんなに私が気になるか。顔がいいばかりに狙われるというのは罪なことだな。 私には生憎とその気はないので、残念だろうが私のことは諦めろ」
「あー。もう話し掛けないので、安心して仕事をして下さい」
ハボックはすっかり逃げの体勢をとっている。以前で反省したのだろう。 賢明だ。そうでなければ、更に嫌がらせとしてあることないこと言い出そうと思っていたところだ。
「よう、ロイ!仕事は捗っているか?」
そう言ってから、何だその顔は、執務室に入るなり、ヒューズは顔を顰めた。
歓迎を望んでいるのだろうが、今はとてもそんな気にはなれない。なれたら、自分で自分のことを褒めているだろう。
「何だ?リザちゃんに色々言われたのか?再起不能のことを」
じろりと睨みつけるが、ヒューズは懲りた様子がなく、推測を続けた。
「リザちゃんは間違ったことは言わないからな。それにしても、お前がそんなに落ち込むとは、余程お前の行いが悪かったんだな。 これを期に改めるのはどうだ?」
ロイの気持ちを知らないヒューズはどんどんまくしたてていく。 ロイはそろそろ忍耐の限界に達しようとしていることに気付いた。 しかし、親友だと言うのに、ヒューズのロイに対する評価は何なのだろう。よくないことは確かだった。 失笑が部下から漏れているのに気付いたロイは机をばんと机を叩き、ヒューズの言葉を遮った。
「ヒューズ!今私は落ち込んでいるわけではなく、腹を立てているんだ!」
突然まくしたてるロイにヒューズは唖然としている。
「何を怒っているって?よくぞ聞いてくれた。エドワードのことだ。あのクソガキ。 何を気に入らないのかいちいち突っかかった言い方をしおって。突然現れたかと思えば、何だあの態度は。 軍部に来て慣れない環境だから、少しは優しくしてやろうかと思えば、あの憎憎しい態度! ヒューズ。私は決めたぞ。あのガキには今後一切関わりを持たん。あんなガキがどうなろうか知ったことか!」
別に聞きたいとは言ってないが、とヒューズがぶつぶつ口の中で文句を言うのを気にせずに、そう宣言する。
「あー。何だ、エドと喧嘩したのか?」
事情を知らないヒューズがハボックにこそこそと聞く。
「ええ。そうみたいで…。とばっちりを食らってこっちはいい迷惑…」
「そこ、私語は禁止だ!」
びしっとロイに指を指されてハボックとヒューズはびくっと肩を揺らした。
何にしろ、根は深そうだな、とヒューズとしてじゃ思わずにいられなかった。