そんなエドワードの様子に何を思ったのか、ヒューズは「今日、ロイたち飲み会するんだとさ」とコップの水を飲みながら言った。
確か週末の予定ではなかっただろうかと訝る。それとも、エドワードに内緒で今日にすることに決めたのだろうか。
断ったくせに何だよ、それと不満に思うのはおかしいことなのだろう。
「本当は週末なんだが、ロイの奴が嫌がってな。それで今日になったらしい。
ま、ロイの奴は週末にデートの約束があるから、今日ならいいってことだ」
「うわー。勝手な奴…」
「エド。今日暇だろう?」
「ま、そうかもしれないけど」
行けよ、とヒューズに促され、大仰に眉を顰めた。
「何だよ、さっきロイとは関係ないってそう言ってただろ?だったら飲み会に行くくらいいいじゃないか」
もう少し言葉を選んでおけばよかったとそうエドワードは後悔した。
「別に」
断ろうと思っているのに、断ることができない。
そんなエドワードにヒューズは背中を押した。
「本当は俺も行きたいんだが、家で可愛いエリシアちゃんが待っているからな。俺の代わりに行ってやれ」
エドワードはそこまで言われてますます断り辛くなるのを感じていた。
それを計算して言っているのだから、ヒューズはあざといとしか言いようがない。
結局店の名前と住所を聞き、エドワードはその店へと赴くことにした。家に帰ろうかとそう思ったものの、ヒューズがエドワードのことをロイに話すだろうとそう思うと、気が重くなった。気が重いまま、エドワードは暗い路地を通って、その店へと向かった。
あんな奴の顔見たくねえと
そう思ってしまうものの、その気持ちを押し隠してエドワードは店の扉を開けた。
そこに広がっているのは、別世界のようにエドワードには映った。
何人も豪快に酒を飲んでいる。それこそ、浴びるように。
そんな面々を見たことがなかったので、エドワードは間抜けにも口を開き放しになってしまっても仕方のないことだろう。
暫くぽかんと面々を見ていると、エドワードに気付いたブレダが「おい、突っ立ってないで、こっちに来いよ」と手で招いてきた。
その顔は赤ら顔だった。明らかにアルコールによるものだとそう知れる。他の者も同然だった。
「おーい、エド。一緒に飲もうぜ」
グラス片手に呼び掛けるハボックはとても気分がよさそうだ。他の者も同じらしい。そんな面々に気後れしたものの、
エドワードは誘いに応じることにした。
テーブルに固まっているフォルマン、フュリー、ホークアイ、ブレダ、ハボックがそのとき、一瞬ではあったが、
ちらっと一人カウンターにいるロイへと顔を向けたのをエドワードは見逃さなかった。
しかも、一人だけ機嫌が悪いのが表情からわかる。心の中で一人だけ機嫌悪そうと訂正していると、ハボックが耳に口を寄せた。
「准将の奴、エドに何かよくないこと言ったんだろ?」
「別にそんなんじゃ…」
口の中で呟くが、ハボックは容赦なく言葉を続けた。
「最近准将めちゃくちゃ機嫌悪いんだよ。俺がとばっちり食らってるんだよ。なあ、ここは一つ大人になって、准将何とかしてくれよ」
「何とかって」
どうすればいいんだよ、とそう言うが、ハボックに「頼む」とエドワードを拝んだ。
エドワードは困って周囲を見回したが、それぞれ酒を飲んでいて、見ていないふりをしている。相当煮詰まっているのだろう。
救援を得られないのを知り、エドワードはううと口の中で唸りながら、カウンターにロイと並んだ。
直ぐに剣呑な視線がロイから向けられた。
「やあ。エルリック少佐。何だね、今日は道理で調子が悪いと思ったんだ」
会って直ぐの皮肉にエドワードの頬の筋肉が引き攣るのを覚えた。なるほどこの調子だったのだろう。
「オレも今日から調子悪かったよ。アンタの顔見るかと思うと」
敬語を使おうと思ったのはけじめだ。一応なりとも上官なのだから、
目上の者に対する態度は弁えなければならないとそう思っていた。しかし、今は職場ではない。
言葉遣いなどもうどうでもいいとそう思いもした。
「君はいつも思っているが、言葉使いが悪いな」
「そりゃどうも」
様子を伺っていた面々はやはり険悪な展開は免れなかったのかと思わず胸のうちで思った。
「そのうえ、背は低いし、短気だし、乱暴な粗忽者だ」
「喧嘩売ってるなら買うぞ」
「そのうえ、いつも肝心なことを話してくれない」
怒りに任せて怒鳴ろうとしたが、それは寸前で押し黙った。
「准将、拗ねてんの?准将が?オレが軍人になったこと話さなかったから?」
「うるさいな、君は!」
そう言ってアルコールを仰ぐロイは年齢以上に幼く見えた。
「大体、君はいつも変なところで頑固なんだ。話してくれれば力になるのに。まるで、私が頼りないみたいに」
エドワードは思っても見なかった言葉がロイの口から出てくるので、唖然とするばかりだった。
しかし、何も言わないでいると恨みがましい視線が向けられているのに気付き、慌てて弁明する。
「あのさ、オレがそのこと話さなかったのはさ、驚かせようと思って」
なんとなく、ばつの悪さを感じた。ロイはお前のことが大事なんだよ、というヒューズの言葉を思い出し、顔が赤面しそうになった。
「そしたら、アンタ本当に驚いた顔してるから、うけたけど」
後で笑っちゃったぜ、とそう言うとロイは何とも言い難い顔をしている。多分、言う言葉が見つからなかったのだろう。
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