「しかし、何で軍人になったんだ?」
ロイの顔はアルコールの所為なのか、赤かった。
もしかしたら、照れているのかもしれない、とそう思ったのは言葉が焦っているからだ。
「それはさあ」
秘密と以前言ったのは照れくさかったからだ。青臭いことを語るのは目に見えていたからだ。
それでも、今こうして話そうと思ったのは、こうしてロイが自分の心情を話してくれたからだ。
そこにアルコールの作用があったのは言うまでもないだろう。恐らく、そうでなければロイは言わなかったに違いない。
髪の毛を思わずぐちゃぐちゃに掻き回してから、エドワードは言葉を切り出した。
「オレ、今まで自分のこと大人だと思ってたんだよ」
「ははは。君が大人なのか?」
「笑うなよ!それで大人だと思ったんだけどさ、漸く身体を取り戻してから、色々考えたんだ。
オレは未だ誰かの力を借りないと何もできない子供だったんだって。
でも、そんな子供でも何かできるんじゃないかってそう思って。何ていうの?恩返し?
今まで助けてくれた人たちに何かできるんじゃないかって思ってさ。
そのためにどうしたらいいのか考えたら、軍人になろうかと思って」
エドワードはそれで一区切りついた。てっきり誰か茶化すのではないかとそう思ったのだが、誰も茶化したりしなかった。
「旅をしてきた。色んな場所を。色んなところを見てきた。だから、この国をいい方向で導いていけたらってそう思ったんだ。
それが恩返しになるんじゃないかって」
笑い飛ばされるんじゃないかと一瞬思ったが、そんなことにもならなかった。
反応が怖くてロイの顔が見ることができなかったが、漸く顔を上げて見たロイは瞠目しているようだった。
「准将?」
せめて反応をくれ、とそんな祈りが通じたのかどうかはわからない。
ロイは突然、ぷっと吹き出したのかと思うと、腹を抱えて笑い出した。
「てめ!笑うなって言ったのに、笑うんじゃねえ!」
「いや、すまない。聞かせてもらったよ。君の決意」
「どうせ青臭いこと言ってって思ってるんだろ!その顔はそう言ってるぞ!」
「いや、本当にそうじゃなくて」
何故だか、ロイは嬉しそうだった。
「そう思ってくれることが嬉しいよ」
別にアンタの為じゃないし、とエドワードは思うものの、何よりもロイの言葉が歓迎を表しているように感じられた。
「それになあ、准将は大総統の地位狙ってるんだろ?」
「当然だ」
にやりと笑う口元に本気を知る。
「オレも狙いは大総統だから」
そう不敵に宣言する。
「敵がいたか…」
ここにも、とそう言うものの、ロイは笑っている。相手にならないと思っているのかそれとも逆か。
「覚悟しとけよ、おっさん」
「おっさんはないだろ。未だ私は32歳だ」
「オレからすれば十分おっさんだ」
「もう少し言葉遣いを直したまえ」
「大丈夫大丈夫。司令部ではアンタ一応上官だから、敬語使ってるし」
「そういう問題か?」
いつの間にか不敵な会話は交わしているが、刺々しい空気は離散していた。
そんな二人の様子を離れたテーブルで見届けてから、ホークアイは安堵して、グラスに手をつけた。
「どうなるのかと思いましたけど、うまくいきましたね」
フュリーの言葉にホークアイは同意する。
「そうね、このままだと准将の仕事が増える一方で困っていたから助かったわ」
「でも、エドも大総統狙いとはな」
そうブレダが呟く。
「エドワードは優秀ですからね。准将も本気にならざるを得ないでしょう」
フォルマンの言葉に一同は頷く。
「仕事が捗るといいんだけど」
ホークアイの言葉には希望が込められている。
「でも、本当に仲直りしてくれてよかったなあ。俺にとばっちり集中していたし」
同情を禁じ得ない、とホークアイは思う。しかし、自分もとばっちりと食らっていたことをホークアイは感じている。
それに、と思わず目がロイへと向けられる。ロイのエドワードへの感情は――。
自分を誤魔化すように、一口とホークアイはアルコールを啜った。
これからどうなるのかが見当もつかない。それが不安でもあり、ある意味では嬉しかった。
他の者ももしかしたら、感じているかもしれないが、口に出したりはしなかった。
「でも、エドワード君を部下にする話はどうなるんですかね?」
「それは多分、すると思うわ」
ホークアイの言葉にフォルマンは目を向ける。
「准将はとても嫌がってましたけど」
「それはそうね。でも、エドワード君の決意を聞いてからは考えが変わったと思うわ」
「どうしてですか?」
フュリーの問いにブレダが答えた。
「准将はさ、エドを危険な目に遭わせたくなかったとそう思うんだ。
何せ、狙いは大総統だし。准将は上から煙たがられているから、当然命の危険に晒されることだってあるし」
「そう言えばいいのに」
ハボックは呟く。
でなければ、あれほど強固に理由を尋ねたりなどしなかったとそう思っているのがホークアイには知れた。
ホークアイは最初からわかっていた。どれだけ、ロイがエドワードに感情を砕いているか。
しかし、エドワードは自ら進んで軍に下ったのだ。そのことをロイは忘れていたように思う。
「エドワード君の決意もこれでわかったことだし、新たな仲間が増えるわね」
ロイとエドワードはどうやら錬金術のことについて話をしているようだ。
白熱しているらしく、ホークアイたちには内容がわかりかねるものだった。
二人には恐らく、ホークアイたちの言葉は耳に入っていないだろう。
なので、ロイの部下5人でひっそりと乾杯をしたのも気付いていないのだろう。
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