クラピカが帰った後、レオリオは勉強に戻ろうとした。 医者になるためには、先ず大学に行かなければならない。 そのために、難関と言われるハンター試験に臨み、合格したのだ。 しかし、更に、裏ハンター試験なるものまでが存在する。 それに合格しなければ、一人前のハンターとして認められないのだ。 何と厳しい。 助けられた、と合格したことについてレオリオは、そう思っている。 特にゴンやクラピカには。 だからこそ、やはり医者になりたい。 応援してくれているのだから。

けれども、全く勉強に身が入らなかった。
思わず、額に手を当ててしまう。
「全然、勉強やる気しねえ!」
思わず、心からそう叫び、開いていた本を閉ざしてしまった。 理由はわかってる。
クラピカがレオリオにキスをしたこと。
どういった理由でなのか気になって仕方ないのだ。 本人の前では聞けず、電話でも聞けず、メールをしようかと思ったが、メールの文を作っている最中に「出来るかー!」と携帯電話を放りしだしてしまった。

クルタ族の習慣とか言ったが、それはぜってえありえねえよな。
今までそんなことしていなかったし。
オレのこと好きなのかな?
クラピカは。
いやあ、嫌われてはいないと思うけど。
大体嫌われていたら、オレの家まで来ねえけど。
あのとき、見たら危ねえもんは、ほぼ片付けたし。
普通に一緒にいただけだし。
そういうの潔癖そうだもんなあ。
そうだよな、潔癖そうだもんな。
不特定多数にキスなんてしないだろうし。
けど、本当に普通にキスしたから慣れてんのかな?
いや、オレも別にキスなんてしたことあるけど。
先にオレからしちゃったけど。
いや、したと言っても、額だし、額。
ああああ、しかも、オレしたいからしたとか言っちゃった。

レオリオがクラピカに向けるものは、好意だけではないのだとわかっている。 けれども、同じものをクラピカが持っていると考えるのは難しかった。 というよりも、想像の範疇外なのだ。

「………考えてもわかんねえ」
とうとうレオリオはその場に仰向けになり、寝る体勢になった。 無闇にごろごろと寝返りを打っていると、直ぐに受信音が鳴り響いた。
「え?誰だ?」
クラピカだったらどうしようと一瞬硬直していたレオリオだったが、直ぐに放り出していた携帯電話を拾い、電話に出た。
「あー、もしもし」
携帯電話から聞こえた声は女の友人の声だった。 女にしては、ハスキーな声が耳に響く。
「おはよう。今日何時からあんたんち行っても良かったのかなと思って」
「こんな朝から電話するな。安眠妨害だ」
安心して、抗議する。 勿論、起きていたのだから、安眠妨害などされていない。
「もう10時だよ?朝勉強した方がいいっていうじゃん。起きてたのかと思ってたけど」
「まあ、朝のが勉強捗るけどな」
今、全く捗りませんが。
「それより、何時に行っていいの?」
「いいよ、何時に来ても」
何人かの友人で家で酒を飲もうという話が出ていたのだ。 それが今日だった。
「じゃあ、適当に行くよ」
「ああ。………いや、やっぱ悪い」
了承したものの、レオリオは直ぐに否定の声を出した。
「えー?」
明らかに気色ばんだ声が聞こえてきた。
「いや、今日全然朝勉強やる気でなくてさ、夜勉強やろうかと思って」
「ちょっとくらいいいじゃん。ってかあんたが言ってたし」
「そうだけどさ。まあ、察してよ」
「………察してって言われて察せれるわけないじゃん。いいよ、他で頼むから」
気持ちを汲んでくれたらしい。 流石昔からの友人だ。 少し、オレに対して気があるんだろうな。 そうでなければ、電話でわざわざ確認したりしない。

でもなあ、今日は勉強したいんだよ。全然やる気起きないんだけど。クラピカにエールを送ったのに、その自分はってやっぱり、かっこ悪いしな。

背伸びをして、レオリオは立ち上がった。
窓から空を眺める。 空は白い雲が点々と散らばり、快晴だった。 その空の中に、飛行船が混じる。 そんな中、無意識に指が唇に触れた。クラピカとのキスを思い出し、なぞるように。

一般的に、額の上なら友情のキス。
手の上なら尊敬のキス。
頬の上には厚情のキス。
掌の上なら懇願のキス。
唇の上には愛情のキス、と言われている。
そのことを否応なく思い出しながらも、「よし、やるか」自分に気合を入れるために、そう一人ごち、レオリオは自分の机の上に座り込むと、分厚い医学書を開いた。