ホテルべーチタクル。 それは幻影旅団のメンバーが集まるところだとセンリツから話を聞き、すぐさまクラピカは行動に移した。 ホテルのスタッフに変装したのだ。 これならば、旅団の目を掻い潜ることが出来る。 既にスクワラかクラピカの情報は奪われている筈だ。 そして、恐らく、スクワラは生きていないだろう。 今いる受付の者から交代する手筈が整っている。 それをホテルのロビーで待っていた。

「お姉さん、いつもここで働いてるの?」
クラピカの横を通り過ぎようとしていた、客が声を掛けてきた。
「ええ」
面喰らいつつ、笑顔で対応する。 その客の後ろにはもう二人、おそらく友人がいるがにやにやして見ているだけだ。 傍目からしたら面白いのかもしれない。 もしくは、このような行動に出ることがよくあるのか。 声を掛けられるとは思いもしなかった。
「仕事っていつ終わるの?」と続けて質問が来る。 しかも、近づいて来た。
「今日は深夜まで仕事なので」
クラピカは周囲に目を向けた。 このホテルで注目されるのは危険だ。 しかし、周囲の者たちは気付いていないようだ。
旅団がいつホテルに来るのかわからない。 ただでさえ、高ぶっている気持ちが煽られる。
「終わるまで待っているからさ、飲みに行こうよ」
「お客様とのプライベートを過ごす禁止されているので」
「また使うからさ、それくらい多めにみようよ」
「お客様、困ります」
「困った顔、可愛いね」
ぴしりと、自分の中で限界が切れ掛かっているのを感じた。
盛大に顔をにやけさせて、客が腕を取った。
が、クラピカではない、別の手により払いのけられた。
「何かオレの連れが問題起こしましたか?こいつ、仕事未だ慣れてないんで、許してやって下さい」
レオリオが目の前に立っていた。 動向を見張っていたのだろう。 客からを庇うように、腕がクラピカの前に出される。
「いや、そんなことないけど」
屈強なレオリオの姿に、客は怖気づいたようだ。 というよりも、にこにこしているのにも関わらず、怒気が放たれているのがわかったのだろう。
何か他にも言いたげであったが、「行こうぜ」と連れであろう二人に声を掛け、客はホテルを出て行った。
「大丈夫だったか?」
「ああ。ありがとう」
レオリオが助けに入るとは思わなかった。
「今、お前危なかっただろう?落ち着けよ」
自分の感情を、レオリオは把握しているようだった。
あのままの遣り取りが続いていたら、クラピカはきっと手を挙げていた。
「…ああいう輩は結構いるからな、気を付けろよ。今のお前、すごく綺麗なんだからさ」
すごく綺麗。
今、レオリオはそう言っただろうか。
落ち着かせるように、励ますように、ぽんとクラピカは軽く肩を叩いて、レオリオはレオリオは所定の位置につく。ソファに座り、ばさりと新聞を広げた。クラピカのいる位置からはもう顔が見えない。

「かっこいい。今の人、あなたの恋人なんですか?」
一部始終を見ていたらしい脇にお盆を抱えたホテルの給仕係から、声が掛かる。
「は?」
職務中と自覚はあるのか、小声だが、はっきりと聞こえた。
「羨ましいなあ。ああやって困ったときに助けてくれる人」
否定するのも面倒くさくなって、クラピカは曖昧に笑ってみせた。 そのせいか、どうやら勘違いは継続されたようだ。 けれども、かっこいいとレオリオを褒められて、嬉しい気持ちが少なからずある。
私もかっこ良かったとそう思うぞ、レオリオ。
調子に乗るだろうから、言わないが。
嵐のように凶暴な気持ちは少し、凪いでいた。

曖昧な笑みから、自然の笑みに変わったのを、クラピカは気付いていなかった。
それを見て給仕係がやっぱり恋人なんだ、いいなあと再度思ったことも。