暖炉の中、目の前の火はぱちぱちと音を奏でている。 薪を加え、更に火は勢いを増す。 室内には乾燥した空気ばかりが満ち溢れている。 色を変え、形を変え、それでも、火は耐えることはない。 火の周囲だけが煌々と明るい。 二酸化炭素ばかりが埋め尽くした空間は息がし辛い。 何となく、手袋に目を落とした。 これまで幾つもの命を奪ってきたもの。 そして、今はこれまでとは逆に使わないとそう決めた。 瞳を閉じれば、蘇ってくる、それは――。
片目での不安定な世界の中、私は窓を見遣る。 そこは白の世界。 閉ざされ、境界線がまるで見えない。
ただ、白、白、白。
色彩というものを一切失ってしまったかのような。 この北の地に来てからというもの、窓の外を見ることが日課となっていた。 しかし、そこにはいつもの景色以外の何もない。 たまにやって来る元部下や、同僚までもが遠い存在になってしまった。 そんな中で、ロイは夜に一人、暖炉に薪を加え続けている。 何をするでもなく。

この空の向こうに君がいるのか――?
空を見上げる癖がついた。
いつからか。
君を想う度。
ふと、口が開いた。
「待ちくたびれてしまうから、早く帰っておいで」
いつものように待っているから。





空を何となく見上げることが増えた。





門の向こう側。 ドイツのミュンヘンというこの地。 自分たちが起こしたことを罪としてそう実感するには充分な距離だ。

「どうしたんですか?」
俺が足を止めていることを知って、声が掛かる。 弟そっくりの、しかし、別人の男。きっと、弟が成長したら、こんな風になるのだろうと安易な想像がつくような。 何でかな、とそうふと思ってしまう。
どうして。
視線を俯かせたりなんてしない。
「何でもない」
笑えただろうか、とそうふと思った。不安に駆られて。
呼ばれたような気がしたから、とはそう言わない。
アンタはそこにいるんだよな、ちゃんとそこにいるんだよな。
手を伸ばしたくなる。
今にも天蓋から雨粒が零れそうな、そんな曇り空がそこには広がっている。
人通りが決して少なくはないこの雑踏の中に同居人が足を止め、俺を待っている。
「ちゃんと戻るから、待ってろよ」
いつものように。
不思議そうな顔する、同居人の姿がエドワードの視界の隅に映った。
言葉を、続けたりしない。
空はどこまでも高く、広い。
掴めそうもない、その空を鳥が自由に羽ばたいている。