本当に、全く。
嵐のように突然現れ、消えたエドワードのことを思った。 そして、当然のように、アルフォンスはエドワードのところへと向かっていった。 自分には出来ないことだった。 そして、自分に出来ることを教えてくれたのは、奇しくもエドワードだ。
会ったら、言いたいことがたくさんあったように思う。 顔が見れれば充分だともそう思っていた。 しかし、出来れば、と。

「行ってしまいましたね」
懐かしんでいるような、そんな声をホークアイが出した。 見上げているのは空だった。 いつしか、ずっと、気付けば見上げていたその空。 そこにいるのだろうな、と漠然と思っていたその空の向こうに、ちゃんとエルリック兄弟はいるのだ。 仲が良く、離れることなど考えられなかったそんな兄弟だ。 一緒にいるのは当然のことだ。 しかし、寂しい思いがあるのも事実で、そのことを気付いたら考える自分がいた。 答えは知れているのに繰り返し。
「良かったんですか?」
その言葉にどんな意味が込められていたのだろう。 一緒に行かなくていいのかという意味なのか、それとも、門を壊すことに対してなのか。 判然としないまま、ホークアイに倣って空を見上げる。 青く、澄み渡った空だ。 あちこちに雲が浮かんでいる。 その下、パラレルワールドに繋がる門がある。栄華を嘗て極め、そして、今は廃墟になった場所に。
「いいんだよ」
会えた、ただそれだけで良かったのだとそう納得するように呟いた。
「言いたいことがたくさんあったように思えたが、案外会ったら言えないものだな」
おかえり、とそう言おうとそう思っていた。 が、その言葉はお預けらしい。
「これっきりとは思っていないんでしょう?」
「そうだな、実はそう思っていない」
笑ってそう言ってしまう。 長年副官を務めた彼女には嘘を吐く必要がないからだ。
「私にはやらなくてはならないことがあるし、彼にも、彼らにもやらなくてはならないことがある。 だが、やり終えたそのときには、また顔を見たい」
「そうですね、私もです」
他の部下たちもきっとそう言うだろう。

振り向けば、自分の下へと駆け寄ってくる部下の姿がある。 ホークアイと同じく、きっと説明を求めに来たのだろう。 戦闘が終わり、あちこちに破壊の跡が残る、そんな街の中から。

気付いたら、口の端には笑みが浮かんでいた。 北部にいたときよりも、確固と自分のいるべき場所が知れたからだ。

「そういえばな、中尉」
街の一隅、長年の部下だったホークアイには自分自身馬鹿みたいに思えていた言葉を口に漏らした。
「はい」
「一度だけ、夢を見たんだ」
「何の夢なんですか?」
「同じような、世界のことだよ。但し、錬金術がない世界だ」

考え過ぎていたからかもしれない。 だからこそ、そんな夢想をしたのかもしれない。 しかし、実際にそれは、あったのだ。まるで、恋焦がれているようだ。 しかし、人に言わせればその通りなのだろう。 繋がっていた。 だから、今、何処かで自分はまた会えるだろうと確信を深めているのだろう。 それが何年後、もしかしたら、何十年後になるのかはわからない。 それでも、もし、彼が自分と同じような気持ちであったらいいとそう思えた。
「これからまた忙しくなる。頼むよ、中尉」
自然と、その言葉が口に出た。 少しだけ、安堵したような顔を見せた後で、ホークアイは当然とばかりに頷いた。
「ついて行きます」

白ばかりが目に付いたその場所から離ればこの世界には色が溢れていることを知る。 雪に囲まれ、白以外が目につかなかったあの北部での毎日。 それでも、この世界にあの目に鮮やかな少年がいないことは、残念だった。