ざくざくと髪を切っていく。 その音は何処か遠くで聞こえるようだ。 弟のアルフォンスの長い髪は、鋏で切られ、いつしか短くなっていく。
「せっかく伸ばしたのに」
「ううん、兄さん、切ってよ」
勿体無いな、と髪を切りながらそう思う。
以前、エドワードがアメストリスにいたときと同じ服装をし、髪まで伸ばしていた弟の姿が少しずつ遠ざかっていく。 何故、アルフォンスがそんな格好をしていたのか、その理由が今のエドワードにはわかる気がした。 同じ気持ちでいたのだろうと。 だから、少しだけ、髪を切っていると寂しいのだ。

アルフォンスの長い髪の一房を手に取る。 指通りがさらさらとしている、綺麗な金髪だ。 髪を切りたいんだとアルフォンスがふと、言い出し、「オレがやるよ」と言い出したのはエドワードだった。 床には、髪の毛がばらばらに散らばっている。

髪を切っていくうちに、ハイデリヒのことをふと、思い出す。 顔が同じだからだろう、ふっと、郷愁が訪れてくる。 それは、懐かしい、一緒に研究をしていたときの思い出だ。 楽しくもある、そんな懐かしい思い出。 時折、脳裏に浮かんでくるのだ。 そして、泡のように儚く消えていく。

「エドワードさん。根の詰めすぎはよくないですよ」
「わかってるって。もうちょっと」
ハイデリヒが研究室に閉じこもりがちなエドワードに声を掛ける。 そう言うハイデリヒも同じで、研究室にいることが常だった。 コーヒーをエドワードに差し出しつつ、エドワードが書いているロケットの図面へと目を向ける。 あちこちにメモが書かれている図面はいつしか汚くなっていた。
あまりきちんと掃除していない研究室は、くすんでいる様にも映る。 それでも、研究に向き合っているのは、楽しかった。 ただ一つ、帰れる手段に直結しているから。 それに、ハイデリヒと研究をしていると、弟が元の身体に戻っているようで。 いつか、こんな風に、とそんな夢を見ているような。 笑ってこんな風に他愛ないことでも話せたらとそう思っていたから。 アルフォンスの身体を取り戻して、笑いあいたいと。
「エドワードさん。そんなに戻りたいんですか?」
ふとしたときに、掛けられるハイデリヒの言葉に、ふっと足が止まるようなそんな感覚を覚える。 アメストリスの話をしてから、時々彼から零れたそんな言葉の数々。 何かを確かめるように。

戻りたいよ、そんな言葉を飲み込んだ。 代わりに、戻るんだ、帰るんだよとそう言った。 虚勢を張ることにはすっかり慣れていた。 そうしないと、保っていられない。 弱い自分を見せたくなかった。

ごめんな、と何故かハイデリヒに謝りたくなった。
何故か無性に。

「アルフォンス」
「何?兄さん」
ハイデリヒとアルフォンスが混合し、ハイデリヒと話をしていたときに、 何故エドワードさんと言うのだろうと不思議に思ったことがある。

「ごめんな」
もう誰に対してなのかわからない、そんな謝罪を述べた。 気付けば、首の辺りまで髪は短くなっている。 昔のアルフォンスに近付いてきた。昔のアルフォンスから少し、歳を取った。

「違うよ、兄さん、ありがとうでしょ」
エドワードの言葉を汲み取ったアルフォンスのその言葉にふっと、泣きそうになったが、それを笑って誤魔化した。