すらすらと書類に目を通し、サインを施していく。 最初遠近感覚も掴めていなかったが、大分掴めるようになった。 私生活に支障はない。
時間というものは少しずつでも進んでいくものだ。時計を見れば、時間は夕刻だった。日が落ちているのが、窓から見れた。

「今、大佐一番会いたい人って誰ですか?」
ハボックがふと、そう言った。何処かにいなくなったかと思えばの唐突の質問だ。誰かに会いたいような、そんな顔をしていたのだろうか。
執務室にはホークアイではなく、ハボックとロイ二人だけだった。だからこそ、少しだけ今は休憩したい気分になり、ロイはペンを動かすのを止めた。
「何だ、いきなり」
直ぐ思いつく人物は遠いところにいる。 何だか、見透かされているようで、変な気分になった。
「たくさんいるぞ。もちろん、デートの相手にも会いたいし」
幾つもの女性の顔が思い浮かぶ。しかし、今、会いたいのは彼女たちではない。
「いつでも会えるじゃないですか」
「ヒューズも会いたいな。きっと会ったら、うるさいが」
懐かしい友の顔が浮かんだ。 けれども、きっと、そう言わせたいわけではないのだろう。それが、なんとなくではあるが、わかった。
「他にはいますか?」
「…………エルリック兄弟に会いたいな。とりわけ、鋼の方だ」
ああ、違う。今は、エドワードと言った方が正しいだろう。何故ハボックは言わせたいのだろう。
「俺もまた会いたいです。あいつら、何してるのかなって考えますよ」
「まあな」
空を見る度に、考えてしまうと言ったら、ハボックは何というのだろう。
「あ、大佐、目を瞑って下さい」
「…………さっきから何なんだ、いきなり」
「大佐にプレゼントがあるんです」
「………お前のキスなら要らんぞ」
「そんなことはしません」
「目を、閉じて」
どうしても、目を閉じさせたいらしい。
「わかった」
言われた通りに目を閉じた。
まだ自分の誕生日ではない筈だ。それ以外でのサプライズとしたら何なのだろう。
「目を開けて」
扉がかちゃと開く音がした。 開けてみると、そこにいたのは、自分が待ち望んだ姿があった。 何だか、また会えるような気がしてならなかった。 一度あることは二度ある。 二度あることは三度あるというではないか。 奇跡、というものを信じてはいない。 しかし、エドワード・エルリックという人に関してだけは、奇跡というものを信じてみたくなる。 それは何故か。
「リアクション少ないぞ」
そう文句を言われる。眼帯も、やっぱり似合わないと言葉が添えられた。
「会える予感がしたんだ」
そう笑うと、目の前にいる青年は、「つまんねえ」と一言そう言う。
ハボックもつまらないとそう顔に書いてある。 一体どんな反応を期待していたのか。
「アルフォンスは?」
「アルもいるよ。今、ホークアイ中尉たちに挨拶してる」
だから、執務室にはハボックしかいないのだ。仕掛け人は一体誰なんだろう。ホークアイのような気がする。
「そうか」
片目だけでも、見えて良かったと心の底から思った。 目の端でハボックがそそくさと退室するのが映った。 気を遣ってくれたのだろう。 言いたいことが、今なら言える。
「おかえり」
笑って出迎えれる。
「ただいま」
返されたその言葉に、少し泣きそうな気持ちになりながら、ロイはエドワードに向かって、手を伸ばした。 今度こそ、捕まえるために。
抱き締めた心地は、やはり女ではないので、柔らかくはない。 それでも、抱き締めているだけで、何故だか幸せだった。
「おい、大佐っ」
突然の私の行動にエドワードは戸惑った声を上げた。
「しばらくこうさせてくれ」
実感が湧くまで。 エドワードの抵抗がやんだ。 ぎこちないながらも、エドワードの手が背中へと回される。
「また、会いたかったよ」
そう伝えると、エドワードがこくりと頷いたのがわかった。


ホークアイ中尉。私の予感も捨てたもんじゃないだろう?

ほら、また会えたね。